知らない顔

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知らない顔

5時に起きて、ダブルベッドの横に眠る夫を起こさない様に気を付けてベッドから抜け出す。 隣の部屋に行き、広いウォークインクローゼットの中で服に着替える。 ドアも静かに閉めて、キッチンに行き、夫のお弁当と朝食作りを開始する。 終わり頃に新聞受けに新聞を取りに行き、夫が座るダイニングテーブルの上に置く。 6時過ぎた頃、夫が寝間着のまま顔を出す。 「おはよう!」 「おはよ。」 挨拶だけは返すけど、夫はそれ以上何も言わない。 椅子に座り、テーブルの上の新聞を読み始める。 一流商社の夫らしい行動で、結婚した当初から変わらない。 新聞も経済新聞と普通の新聞。 スポーツ新聞でも朝から読んでくれたら会話も広がりそうなのにと、時々考える。 何も言わずに静かに食事を並べる。 「お味噌汁、熱いから気を付けて…。」 「…ああ。」 暫くすると新聞片手に食事を開始する。 「食べる時くらい読むのやめたら?」 「…ああ。」 止めた事は……一度もない。 今、私がどんな顔をして食事をしているか……夫は知らない。
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