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「………えっ!!愛子、今、なんて言った?」
「だから!産婦人科に行くって!」
「まさか、子供?」
この言葉を聞く分には、普通の妻ならば夫が喜んでいると解釈する。
それが当たり前で結婚して三年も経っていれば嬉しいはずだ。
でも、愛子は見逃さない。
夫、誠一の動揺とも言える態度と言葉。
「違うわよ!昨夜も話したでしょ?身体に異常がないかだけでも診てもらうって。もし異常があって、治療に時間が掛かっても遅くに診てもらうと治ったとしてもそこから産むのは無理になるかもしれないでしょ?10年掛かる人もいるって…。今からなら、私もまだ25だし、10年掛かったとしてもぎりぎり産める年齢だから、念の為にね?」
そう話すと少しホッとした顔をするから内心腹が立つ。
「無理しなくていいんだぞ?絶対、子供って訳じゃないし、居なくても仲のいい夫婦はいるんだし…。」
「でも、あなた子供好きでしょ?お姉さんとこのお子さん、可愛がってるし…。」
「そうだけど、出来たらいいけど無理はしなくていいよって事。」
「別に無理じゃないわ。それにあなたに行って欲しいなんて二度と言わないから安心して!」
嫌味を込めて言ってみる。
「行きたくても課長になれるかどうかの大事な時期なんだ。仕事は休めないよ。」
バサバサと新聞を畳んで、部屋に着替えに行った。
独身者は昇進しにくいらしく、結婚して一年で誠一は事業部第一チームの主任に昇進し、三年目になり事業部事業課の課長昇進が目の前まで来ているそうだった。
この頃には日曜にホームパーティーをしたり、帰りにいきなり部下を数名連れて来たり、部長さん宅に休日連れて行かれたり会社の付き合いが多かった。
全部、課長昇進の為なんだと思う。
良い妻を演じていた。
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