冬の終わり

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「君を推すからだよ?まさか不倫相手を推すとは考えないだろう。そこは安心出来る。だが結婚したらどうなる?系列会社だから耳には入る。また噂になるのは目に見えてる。異動したら結婚した。相手は異動前に課長に推していた安藤 彩香だ。」 今度は誠一の言いたい事が彩香にも理解出来た。 「何年か…先にしたらどう?そうだ!誠一が戻って来たら!戻って来てお付き合い始めて、結婚しましたなら……いいでしょ?」 「いいや?」 真面目な顔で首を振り、続けた。 「調べればすぐ分かる。俺たちは結婚のタイミングを間違えたんだ。そして俺はもう……彩香と結婚する気はないよ。彩香もそうじゃないのか?出向と聞いて、いや、その前から…お互いに気持ちは冷めていたよな?」 「冷めてないわ!誠一はそうでしょうね?あの子が好きだったんでしょう?最初から気付いてたわ!嫌いな子と結婚出来る人じゃないもの!だから引き離したかったのよ!不安だったからセックスの後は電話してって言ったの!いつか離婚する時に誠一が嫌だって、あの子と別れない…私と別れるって言わない様に、私、努力して来たのよ?あの子と別れたのにどうして私と別れなきゃいけないのよ!」 誠一の腕の中で胸を叩いて彩香は泣き叫んだ。 「彩香……最初は好きだっただろうな?けど、今は違う。執着だよ。愛子に対して負けたと思っていて、認めたくないんだ。俺と結婚して勝った気分になりたいだけだ。そうだろう?冷静になれば分かるはずだよ?彩香は頭が良いんだから…。それに……違うと言うなら今、結婚出来る?」 「えっ?い…ま?」 腕の中で泣いていた彩香の動きが止まる。 「課長を諦めて、結婚して…家庭に入るかそのまま主任として働くのも自由だ。そこそこ幸せになれる。それなら俺は、彩香と結婚する。」 それを聞くと泣きながらクスッと笑う。 「さっき……気持ちは冷めたと言ったのに?」 泣いていた彩香の声が…冷静な声に変わる。 「ああ…。それでも愛していたから、彩香の望む通りにしたい。」 「愛していた?…………愛してないわ。あの女を愛してた。あなたはずっと…。いつ取られるかって思ってた。結局…取られたわね。子供産んでいれば…取られずに済んだのかしら?」 「君は産まないよ?出世を選んだだろうね。」 その言葉を聞くと涙を拭き、彩香は誠一の胸を両手で押した。 「いいわ…別れる。変な噂が立つと困るわ。どっちも捨てたあなただもの。どっちも残らなかった……それでいいわ。置き土産…よろしくね?」 「分かった。彩香、今までありがとう。幸せに…なれよ?本当に好きだった。彩香と結婚する日を…想い描いていた日が確かにあった。キラキラした君が好きだったよ。さようなら。」 「……さよなら。誠一…。」 彩香の後ろ姿を見ると肩が微かに震えていた。 部屋を出て静かにドアを閉めた。
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