四年目

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「離婚は最終手段でいいと思います。奥様のお気持ちが固まってから…。ただ、証拠は欲しいです。いざ離婚になると、相手はお金を払いたくもないですからあの手のこの手です。その時に集めていては不利になります。隠されてしまいますからね…。有利になる証拠はどんな物でも集めて下さい。」 最初の相談はそんな言葉で締めくくられた。 相談は今日で5回目になる。 マンションから駅までバスで30分、駅から電車に乗り、夫の会社と同じ方向へ一駅、その駅で降りて少し歩いた場所に結城 楓弁護士事務所がある。 企業弁護専門で、親友の重本 佐和子夫婦が勤める会社の弁護士でもある。 その日は朝早く面接があり、もう一駅先の駅で降りて面接を受けた。 パート雇用だが、先々、正社員としての雇用もチャンスがあるという好条件だった。 だから携帯の電源を切った。 夫、誠一の会社はここからさらに五駅先だった。 面接を終えてから、途中下車して結城弁護士事務所に顔を出した。 初めて結城(ゆうき)(かえで)弁護士事務所に来た時は、緊張の上、悩みに悩んでこのドアの前でウロウロしてしまっていた。 ドアを開ける勇気となったのは、やはり夫、誠一の愛人が自宅に来た事が大きかった。 夫の愛人が何食わぬ顔で自分の前で笑顔を振りまいていて、それに血が沸かない女性がいるだろうか? 冷めて嫌いになっていたとしても、自宅に来られるのはいい気分はしないのに、愛子はまだ結婚三年目で表面上は上手くいっていて、愛子には苦労して入った会社を諦めても結婚をしようと思えた相手だ。 お付き合い半年で結婚を決めたほど好きだと思えた相手で、愛人がいると分かった今でも別れてくれたら目を瞑る…とまで思っているのだから、当然、腑が煮え繰り返る程血が沸き立つ。 (離婚しないにしても、あの図々しさに何か対抗出来ないだろうか?) そんな事を考えて弁護士事務所のドアを開けたのだった。 安藤 彩香は二つ歳下の総務にいた愛子の事は知っていたはずだ。 それは夫とのメール内容で分かる。 結婚を機に別れたかも知れないが、()りが戻った事も事実で愛子が何も気付いていないとタカを括って自宅に来ている。 どれ程人を馬鹿にした行為か…悔しくて仕方がなかったのだ。
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