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「今日は確か面接でしたよね?」
結城先生に聞かれ、愛子はにこやかに答えた。
「はい。パート採用なのでその場で決まりました。」
「まぁ、それはおめでとうございます。まず、一歩ですね。」
「はい。それで友人の佐和子からもし、正式に離婚の依頼をするならここではなくて別の方を紹介してくれると聞いているのですが、それは本当でしょうか?」
「ええ、そのつもりです。離婚、される気に?」
結城に聞かれて愛子は首を振る。
「いいえ、ただ主人がこのまま何十年も不倫を続けるだけとは思えませんし、相手が何か言って来ないとも限りません。その時、慌てても遅いと思うので準備をしておきたいのです。自分も……いつ離婚したいと思うか分からないので、その時の為に正式に依頼を受けて戴きたくて、失礼ですが、相性もあると思いますし、事前にお会いしてお話をしておきたくて…。」
ウンウンと頷きながら結城は笑顔を愛子に向けた。
「私は企業弁護を専門にしていますが、あ、山岡さん?こちらに来てくれる?」
奥にいた一人の女性を呼んだ。
結城の横に座ると、結城は紹介を始めた。
「彼女ね、山岡 志津子さん。今、43だった?3ヶ月前からうちで働いてもらっているの。いずれは企業専門として勉強を兼ねてうちに来たんだけど、ここへ来る前は家庭裁判専門の事務所にいてね。離婚裁判も経験があるの。彼女がこのタイミングでうちに来たのも何かの縁だと思うし、彼女が担当で良ければ正式にうちでお引き受けしようと思うのだけど、どうかしら?勿論、担当は彼女だけど私もお手伝いするし、フォローもさせて頂くわ。どうですか?」
「ここで引き受けて頂けるなら私は安心です。山岡先生、笹嶋 愛子と言います。面倒だとは思いますが、どうかよろしくお願いします。」
頭を下げると、山岡は恐縮した。
「いいえ、先生なんて。お恥ずかしいですけど現場で腕を磨き始めて10年経ってないんです。子供が小学生になってから働き出したものですから。未熟ですが精一杯、務めさせて頂きます。よろしくお願いします。」
この日、正式に契約を書面にすると言われて、話し合いを行った。
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