知らない顔

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玄関まで行き、鞄を受け取り靴ベラを渡す。 「はい。気を付けて行ってらっしゃい。」 「ああ。」 バタンと玄関のドアが閉まった。 ふぅ…と愛子はため息を吐いた。 笹嶋誠一と結婚して6年。 誠一が26歳、愛子が22歳の時だ。 愛子は新入社員一年目で、結婚後も子供が出来るまでは仕事を続けたかった。 が、誠一はそれを笑いながら説得して来たのだ。 ーー「愛子、結婚したら異動もあるかもだろう?部署が変わると大変だよ?それに会社の女の子と結婚したっていうイメージが定着する前に辞めて欲しいんだ。今なら一年目でまだそこまで仕事の結果も残してないだろ?会社にも迷惑をかけないし…子供だって直ぐ出来るよ?その時に辞めたら肩身がせまいだろう?」 せっかく苦労して入った一流企業。 事務職で総務部だったけど、大した仕事ではないけど……誰かがやるべき仕事でしょ?どんなに地味でも、大事な仕事だと、私は胸を張ってしていたのだ。 全面否定の上、誠一の肩身が狭くなると言われては、内助の功処ではないので仕方なく辞める事を了承した。 別れる事は考えもしていなかったし、結婚後、女性が退職するのも当然と思っていた。 家庭に入って6年……子供は出来ないまま。 不妊治療に行こうと思うと三年目に話した。 ーー「旦那さんの精子も調べたいらしいの。どちらに原因があるか分からないし、それ次第で、私の不妊治療も薬か注射か、体外授精か、道を検討するそうなの。」 ーー「そこまでしなくても、まだ三年じゃないか?10年以内に一人出来ればいいよ?のんびり行こうよ?プレッシャーも良くないだろ?ストレスになっちゃうぞ?」 そう言われた。 友人にこれを話してみると、 「いい旦那様じゃない?気にしなくていいと言ってくれて…。まだ三年だもの。仲良くのんびり暮らしていたら、きっと忘れた頃に出来るわよ。あんまり考え過ぎないでね?」 と言われたが、言葉は取り用だと思えた。 誠一は…病院に行きたくないのだ。 検査も受けたくない。 自分に原因があるなど考えてもいないのだ。 優しい言葉で、差し障りのない言葉で拒否しただけ…。 だって夫は……私とは別に女性がいるから…。
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