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昼前に掃除機を掛けているとインターホンが鳴った。
(こんなに早く帰って来た!別れた?)
無意識に心が弾んだ。
別れてくれればこんなに嬉しい事はない。
インターホンの通話ボタンを押すと、オートロックを通過した玄関前に義母の姿が映し出された。
「お義母さま、すぐに開けますね。」
掃除機を手に廊下を走り、掃除機を片付け急いで玄関を開けた。
「どうされたんですか?急に…。」
「いえね?この近くの駅でお友達と待ち合わせしててね?急用で来れなくなったって連絡が入って…。」
話しながら義母はスタスタとリビングのソファまで行き、座った。
愛子も話を聞きながら着いて歩き、キッチンに向かいお茶を淹れた。
「折角、駅まで出て来たし、貴方達の顔でも見て行こうかと考えたの。でもねぇ…いないかな?って悩んだのよ?」
不思議顔をする義母に、お茶とお菓子を出しながら聞いた。
「居ないかなって…如何してですか?」
「……駅前でね、誠一に良く似てる人を見掛けたの。隣に女性がいたからてっきり夫婦でお出掛けだと思って。いないかなぁと考えたのだけど、あれは他人の空似だったのね。」
お茶を飲み、美味しいと義母は呟いた。
義母の前のソファに腰を降ろして愛子は笑顔を向けた。
「誠一さんは今日はお仕事で居ないんです。お義母さんがいらしたと聞いたら残念がりますわ。」
「そう…仕事なのね。」
義母が愛子の顔をジッと見ていた。
(駅前で見たのは誠一さんだと確定しているのね。そうよね。自分の息子を見間違えるって…ねぇ?)
「そういえば一緒にいた女性も誠一に似た人も、今考えたら全然服装が二人の雰囲気じゃなかったわ。いやね、歳をとると目が悪くなって…。」
「まだお若いですよ。雰囲気ってどんな感じですか?私たちより美男美女?凄く派手な感じかな?誠一さん、普段から地味ですものね?」
冗談ぽく、少し笑いながら気にしていない様に愛子は返した。
誠一は地味な色を好んだ。
特に愛子が着る服は尚更に…。
まだ25の愛子には短いスカートもヒラヒラしたワンピースも着たかったが、外出で着る事は禁止されていた。
赤などは下品だし愛子には似合わないといつも言われて、段々と愛子自身もそうかも…と思い始めた。
グレー、黒、白、ベージュ…モノトーンばかりになって来ていた。
「そうね?花柄の艶やかな服だったわ。男性の方もグリーンのジャケットでね。考えたら誠一じゃないわね?」
「そうですね。」
二人で笑顔を見せた。
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