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「ランジュ……そなたの、全てがほしい」
「ん……」
再び胸元に顔が埋められ、白銀の髪が蘭珠の肌に散る。いつも子犬の狭い額を撫でていたように優しく梳いてやる。柔らかく、滑らかで、美しい髪だ。リュシアンは蘭珠のことを繰り返し美しいというが、リュシアンのほうがどこもかしこも余程綺麗だ。
光を透かすその銀糸に見惚れているうちに、リュシアンの手は蘭珠の大事なところへ添えられている。洋袴の内側へ潜り込んできた手の熱さに、太腿がふるりと震えた。
「う、あ、そ、そこは……」
「私に全て委ねていろ」
そ、と手を添えられる。その手の角度で既に己が昂っていたことを知り、羞恥で死にたくなった。
リュシアンの細い指は蘭珠のそれを撫でさすり、やんわりと握りこみ、愛おしそうに手の中で育て上げる。緩慢すぎるその刺激は蘭珠をじわじわと追い立て、行き場のない熱が体の中をぐるぐると巡る。右を向いたり左を向いたり、敷布を握り締めてみたり、リュシアンの背にしがみついてみたり、様々な方法でその熱を発散しようとしたが、余計にもどかしさが募るだけである。
「当、主、う、んんっ、いやだ、こんなの、我慢が利かぬ……」
「あまり可愛いことを言うな、歯止めが利かん」
「知ら、ぬ、あ、ああ、当主っ……」
「名前で呼んでくれ、ランジュ。私を目覚めさせた口づけのときのように」
仰け反った喉笛を舌で舐め上げられながら、あくまで柔らかい口調で言われる。もう何千回と聞いた声であるはずなのに、その甘い響きに脳が蕩けてしまいそうだ。請われるがままに、蘭珠の紅い唇がその名を紡ぐ。
「リュシアン……っ、ひあっ」
その名が飛び出した瞬間、何の前触れもなく蘭珠の秘めた入り口が暴かれる。唐突に突き立てられた指に驚き、混乱する内壁はその指をキュウキュウと締め付ける。途方もない異物感と、リュシアンの体の一部が内部にあるのだという充足感。そのどちらもが蘭珠の中で暴れ狂う。
「あ、ああっ、莫迦、そんなに奥まで、ひ、ああっ」
ぐちゅぐちゅと湿った音がするのは、リュシアンの指が蘭珠の零したもので濡れそぼっているためだ。そんなに音がするほど激しくかき回され、蘭珠は身を捩って乱れた。
「すまぬ、そなたを見ていると止まらん」
「そん、な……っ」
胸の尖りを唇で吸われ、内壁を指で拡げられ、狂ってしまいそうなほどの快楽に翻弄される。蕩けた瞳で、リュシアンの広い背中とそこに散らばる白銀の髪を見ていた蘭珠だが、はたとあることに気づく。既に襯衣ははだけ、下衣もかろうじて足首に纏わりついている状態である己に対し、リュシアンはマントこそ外してはいたが、上着すら乱していないのである。これには些かむっとした。
己の胸にむしゃぶりついている男の頭を、そっと押して引き離す。きょとんと丸くなった翠色の瞳が不思議そうに見上げてくるが、構わずその襟に手を伸ばした。釦を外しにかかるが、手が震えてしまって上手くいかない。
「ランジュ?」
「ずるいではないか。おればかり、こんなに……乱されて」
複雑な飾りのついた金の釦をようやく外し、真青の上着をするすると脱がせる。中から現れた白の襯衣は汗で肌に貼り付いていて、逞しい胸板が透けて見える。男の色香がぶわりと漂ってきて、頭がくらくらした。
その襯衣の釦にも手をかける蘭珠を、リュシアンは黙って微笑みながら見ている。体内に埋まったままの手とは逆の手で、時折黒髪を優しく梳いた。
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