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「というか、そもそもなぜ貴殿は服を着ているのだ。おれは人の姿に戻るとき、いつも、その、裸だというのに」
「ああ、毎回心臓に悪かった」
そう言って頬をさらりと撫でられる。彼の前で肌を幾度も晒してきたということが、今更途方もなく恥ずかしくなってくる。
「ふ、不公平だ。不条理だ。貴殿も、脱げ」
時間は要したが漸くリュシアンの体躯が露わになる。逞しく、それでいて無骨ではない、男としての美を追求し尽くした末のような理想体が、己を組み敷いていた。蘭珠はしばらくの間陶然とそれを眺めていたが、中心にそびえる屹立がこれ以上なく張り詰めているのを見、いたたまれない気持ちになる。さっと顔を紅くする蘭珠に、リュシアンはふふっと声を出して笑った。
「なんだか落ち着かないのだ、素肌が外気に触れているというのは。ずっと毛皮に覆われていたからな」
唐突にそんなことを言うものだから、蘭珠まで笑ってしまった。余りにも魅力的な男の姿なので忘れがちになるが、つい昨日までは子犬だったのだ。
「あの柔らかい毛の触り心地は嫌いではなかったぞ」
懐かしむように、白銀の髪を撫でてやる。するすると手から零れ落ちてしまうほど滑らかな触り心地は、これはこれで悪くない。
「だが獣の姿ではそなたを抱くこともできぬ」
そう言って、再び覆いかぶさってくる。
体と体が一分の隙もなく重なり合い、余すところなくリュシアンを感じる。互いの昂りが腹の間で擦れ合っているのが何とも言えず倒錯的で、蘭珠は頭がくらくらした。和らいでいた熱が、急に息を吹き返す。
その熱をリュシアンにも伝えたくて、蘭珠はゆるゆると腰を動かす。昂ったふたつの熱芯が擦れ合い、犬が水を飲むときにも似た小さな水音が響く。顔のすぐ横にあるリュシアンの喉がコクリと上下した。
「ラン、ジュ……それ以上、私を煽るな」
「煽って、など、ん、くうっ」
蘭珠の体内を探っていたリュシアンの指が引き抜かれ、腹の間で擦れ合うふたつの欲望を柔らかく握りこむ。より密着した熱芯同士は、このまま溶けてひとつになってしまうのではないかと思うほど、熱い。
体内で荒れ狂う快楽の波に耐えられず、蘭珠は、覆いかぶさってくるリュシアンの背に無我夢中でしがみついた。爪が彼の皮膚に食い込んでいることには気づいていたが、止められない。そうでもしていなければ、意識が吹き飛んでしまいそうだった。
「リュ、シアン……」
名を呼んで、首にしがみつく。太く雄々しい首だった。汗ばんだ皮膚に唇を寄せ、やんわりと食みながら囁く。
「こんなの、長くはもたぬ。早く……貴殿がほしい」
そんな言葉が己の唇から出たことに、蘭珠自身が驚いていた。少し昔の自分ならば、絶対に言えなかった。高すぎる矜持と自尊心が許さなかった。だけれど、リュシアンという存在に全て溶かされてしまった。羞恥も意地も全て取り去って、どこまでも素直になれる。
だが、それまで尖った態度ばかりを取られてきたリュシアンには破壊力が強すぎたようだった。彼の手の中に握られた雄芯が急にその質量を増す。ひ、と蘭珠の喉から悲鳴がこぼれた。
「ランジュ、よいのだな」
はあはあと荒い息の中告げられた言葉に、こくりと頷く。肩口に埋まっていた顔を両手で持ち上げ、正面から見据える。つながる瞬間は相手の顔を見ていたいと思ってのことだったが、すぐに後悔した。
獣の姿のときよりもなお獣に近い顔がそこにあった。翠玉の瞳はギラギラと剣呑な光を宿し、色の薄い唇は濡れ、皮膚には玉の汗がいくつも滲んでいる。喰われる、という本能的な恐怖が背を伝う。蘭珠の胸中に怖じ気が生まれるが、遅かった。
両脚が持ち上げられ、肩の上に担ぎ上げられる。大事なところが全てリュシアンの眼前に晒される形になり、忘れかけていた羞恥がぶわりと蘇った。
「あ、リュシアン、こんな……」
「ランジュ」
低く、唸るような声音で名前を呼ばれる。それだけで蘭珠は何も言えなくなった。
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