九※R18

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九※R18

 ぴとり、と。濡れた先端が宛がわれる。体を暴かれる恐怖。一線を越えてしまう不安。己が己でなくなってしまうような畏怖。全てが、はじめの一突きで吹き飛んだ。 「あ、あ、あ、あああっ」  形容しがたい質量と熱が、蘭珠の体を暴く。全てが喰いつくされるようでもあり。逆にリュシアンの全てを呑み込んだようでもあり。自分と相手の境界がなくなり、何もかもひとつに混ざり合うかのような、強烈な一体感。琥珀色の瞳から、涙がごく自然に溢れた。 「ランジュ。愛している。ランジュ」 「ひ、あ、んんっ、あっ」  壊れた玩具のように名を呼びながら、リュシアンは蘭珠の小さな体を突き上げる。これ以上奥などないと思うのに、どんどん深く分け入ってくる。最早蘭珠は己がどんな声をあげているのかも、何を考えているのかすらも、分からなくなった。 「ランジュ」  背を(いだ)かれ。胸と胸をすり合わせ。頬をお互いに寄せ合って、深いところを揺すりながら、リュシアンが吐息まじりに囁く。 「私を愛してくれてありがとう」 「私を求めてくれてありがとう」 「そなたのおかげで私は愛を知った」 「優しくする、慈しむということを知った」 「そなたがこんなにも愛おしい」  リュシアンの言葉が脳の深くに沁みてくる。体の奥から浸食され、蘭珠の内部が全てリュシアンで埋まっていく。こんな感覚は初めてだった。  他人とは分かり合えないものだと割り切っていた。いつからか、己は他人と違うのだと考えるようにしていた。誰も己の立つ頂には届き得ないのだと驕っていた。壁を築き。溝を掘り。誰も寄せ付けず生きてきた。それはある意味では誇りでもあり、一方で諦めでもあった。  なのに今、自分の中にリュシアンがいる。我儘で自分勝手で癇癪もちでどうしようもない男だ。だというのに、こんなにも彼が愛おしい。 「リュシアン、リュシアン……っ」  名を呼べば殊更愛おしさが募る。突き上げられる下腹から生じる暴力的な快楽と、心から生じる泉のような幸福感と。全てに翻弄され、全てに狂わされた。  わけの分からない涙が次々に溢れてくる。リュシアンがそれを舌で何度も舐め取った。その仕草に白銀の子犬の面影を覚え、思わず笑ってしまう。 「犬の、っ仕草が抜けておらぬぞ」 「狼だと言っているのに」  だが最早、狼ですらない。リュシアンの中の獣は失われた。他者を顧みぬ自己愛の獣は、愛を知り、溶けて消えた。 「狼の姿の貴殿は、美しかった。もう見られぬのは残念だ」 「この姿の私では物足りぬか?」 「どんな姿でも、貴殿は貴殿だ。リュシアンそのものを、愛している」 「素直になったな、ランジュ」 「貴殿の、ぁっ、せいだ……。貴殿があまりに明け透けに、んっ、おれを、美しいとか云うから」 「ああ、そうだ。そなたはどんなときも美しい。そして、魅惑的、だっ」 「ひ、ああっ」  脚を抱えなおされ、深い角度で抉られる。体が離れて背にしがみつけなくなった蘭珠は、敷布を握り締めて快楽に耐える。最早限界が近かった。蘭珠の欲望は反り返り、腹の上にぽたぽたと涙を滴らせる。リュシアンのものもまた蘭珠の中でこれ以上ないほど張りつめて、爆発のときを今か今かと待ち構えているようだった。
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