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 蘭珠たち上級官吏は、国家試験に合格したのち東西南北各地の辺境に配属される。そこで役人としての経験を積み、一位という官位まで上り詰めた者から都へと登用される。蘭珠は西方の地へ配属された。西の隣国との国境沿いに広がる、まさに辺境である。とはいえその隣国との間には一国ほどもあろうかという広漠たる森林が広がっており、余り国境(くにざかい)という様相を感じさせない。  この西方の辺境へともに配属された官吏は蘭珠を含めて三人。その中で真っ先に一位に上がるのは自分だと、蘭珠は信じて疑っていなかった。  その俊才ぶりから幼少より神童と持て囃され、二年前の国家試験では主席で合格した。受験者千余人のうちの首席である。その功から、他の者が五位からの始まりであるのに対し、蘭珠は初めから三位という官位から採用された。そんな自分が先駆けでなくて一体何が道義であろう、とすら思っていた。  だがそれから二年。蘭珠の官位は三位からいっこうに変わらぬ。どころか、共に採用された同輩たちが追い付いてきたのである。蘭珠は焦った。己の功をもっと示さねばならぬ。人一倍も働き、職務に有用な学を身に着け、己の優秀ぶりを周囲に見せつけてきた。だのに、官位が一向に上がらぬ。  そして今日、ついに。 「狷二位、昇格おめでとうございます」  斜向かいの卓に、わらわらと下級官吏たちが群がる。同輩の中でも蘭珠が特に愚物と見下していたこの男が、蘭珠よりも高い位に就いたのである。上にへらへらと媚を売ってばかりで能力はたかが知れた、軽蔑すべき俗物である。その報せを聞いたときには鈍器で頭を殴られたのかと錯覚したほどだ。 「いやいや、どうして僕がと思っているところなんだよ。この西方には僕なんかより遙かに優秀な男がいるというのに」  言って、蘭珠に意味ありげな視線を寄越す。腸が煮えくり返るかと思った。 「今宵祝いの席を設けますゆえ」 「おお、すまぬな」 「えっと、その……蘭三位も、如何ですか」  おずおずとかけられた声で、蘭珠の火種に完全に火が点いた。元よりツンと尖った眦が、ギッと鋭く吊り上がる。 「結構。貴殿らのごとき俗物と交わる趣味はない」  水を打ったように場が静まり返る。張り詰めた空気の中、狷有だけが笑みを保っていた。
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