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「あの〜、お兄さん傘ないんですか?」
青年は少し驚いたように少女を見た。
「そうなんだ。夕立ならもうすぐやむと思うんだけど……」
雨の降る外に視線を移し、困った顔に戻った。
「間に合うかなぁ。もうあと5分もないんだよな……」
青年はちらっとスマホを見た。
「この傘、かします! 使ってください!」
青年はまた驚いた顔をして首を横に振った。
「いいよいいよ! きっともうすぐ止むから。大丈夫、ありがとう」
そう答えた直後、雨はより一層激しくバス停の屋根を叩き始めた。少女は青年を見つめたまま、傘を差し出した。
「やっぱり、お言葉に甘えて傘……借りちゃおっかな」
青年は少し照れながら、傘を手にした。
「本当に大丈夫? 急いでない?」
「大丈夫です。お兄さんが帰ってくるまでここで待ってます」
少女は数人がけのベンチに腰を下ろした。
「じゃあ、ありがとう。すぐに戻ってくるから、そうだな……10〜15分くらい」
「気にしなくて大丈夫です」
少女はスマホを取り出して青年に見せた。青年は少女の傘を開き、「ありがとね」と一言言い残して雨の中に出ていった。少女が使うはずだった傘は雨に濡れ、だんだんと小さくなっていった。
ピロンとスマホが鳴った。「了解!」というスタンプだけがお母さんから送られてきた。なんとなく画面を叩いて、キーボードを出したりしまったりする。アプリを閉じると、メッセージアプリしか入ってないホーム画面が現れる。画面を消した。
雨の勢いはさっきよりも弱まり、少しだけ明るくなってきた。足をブラブラさせていると、椅子の下の何かに当たった。しゃがみこんで覗いて見ると、猫だ。白と黒が混じった毛色、茶色い目。少女を見てじっと動かない。少女もじっと動かない。目があったまま、雨音に耳をすませていた。猫がゴロンと横になり、白いお腹を見せた。少女は待ってましたとばかりにお腹をさすり、ベンチの上へと引き上げた。少女が隣に座ると、猫は丸くなって眠り出した。そっとその背中をさすった。
「あなたも、家に帰れないの?」
ボソッと呟いた一言に、猫は耳をピクッとだけさせた。少女は柱に寄りかかって、目を閉じた。真っ暗な世界に雨が屋根を叩く音だけが響いていた。
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