4丁目の少女

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4丁目の少女

 少女はバスに揺られていた。窓の外は土砂降りだ。傘をさして歩くおばさん、カッパを着て自転車をこぐ少年、カバンを頭に走るサラリーマン。みんなしかめ面で雨に立ち向かっていた。それでも少女は早く外に出るのが楽しみでならない。昨日買ってもらった花柄の透明な傘を握りしめた。    「次は4丁目市役所前」というアナウンスが流れた時、少女はボタンを押した。「次、止まります」一斉にバスの中のランプが赤く光る。隣に座っていたおばちゃんがゴソゴソと折りたたみ傘を取り出した。少女はスマホを取り出し、お母さんに「次、おりるよ〜」と送った。バスが大きく揺れ、止まった。ドアが開き、隣のおばちゃんが立ち上がる。少女はぴったりとおばちゃんのあとに付き、混み合ったバスから降りた。  雨の匂いが少女を迎えた。バス停には屋根がついていて、何人かの人がそこで傘を開いていた。隣にいたおばちゃんはさっと傘を開き、雨をしのいで颯爽と去っていった。少女はやっと自分の傘を使えることに高揚していた。傘のボタンを外し、はらりと花柄が揺れる。いざ、傘の下ろくろに手をかけた時、傘の先に立っている青年の存在に気づいた。スーツ姿の青年はピシッとネクタイを締め、まだ汚れていない綺麗な靴を履いていた。しかし、その服装とは反対に、どうにも困った顔をして外を見つめていた。「困っている人を見かけたら、声をかけてあげなさい」というお母さんの口癖がよぎった。片手を傘から離し、スマホを取り出した。「ちょっと帰るの遅くなるかも」とメッセージを送った。前回のメッセージはまだ未読のままだった。スマホをしまって、青年に近寄る。
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