2 自転車乗り紙飛行機リップキャッチ

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 台須はまたもルービックキューブ・サイコロをとった。 「僕は闇雲に体力を使いません。休ませてもらいますよ」  八秒以内に得意のスリーセブンを完成させ、四の目を出した。奴は無地のマスへ向かう。年間チャンピオンを決める最終トーナメントの決勝戦なのに、ブーイングが起こらない。  絶対王者であるがゆえ、静かな立ち上がりが許されている。 「倒し甲斐があるぜ、転坊。俺は俺の道を行くぞ」  通常サイコロを鷲掴みにし、無造作に高々と放った。  ——出た! 外石選手の山賊投げ!  緻密な計算と繊細な技術を放棄した、プロにはあるまじき投げ方だ。  俺はどんな出目でも鼻で笑う豪放さを、全身の毛穴から発する。  サイコロが自分の立つマスを飛びだすとペナルティーになるが、そんなミスは犯さない。  上を向いたのは三の目だ。  進んだ先は〈縄跳び、三重跳び五セット〉だった。  会場がかなり冷めた。  台須もにやついてやがる。 「序盤には楽なイベントが混じっています。山賊投げのあとでは格好悪いですね」 「うるせい。ケチつけんな」  山賊投げは息抜きの効果があるのだ。スーパーエリートの奴にはわからないだろう。  俺は難なく三重跳び五セットを攻略した。  台須は立て続けに四の目を出し、〈床屋のホットタオル〉のマスに移動する。 「お待たせしました、御主人様」  照ファの登場だ。甲高く、何度聞いても素敵な声だ。なぜ俺じゃない。  小憎い奴が床屋の椅子に客的にふんぞり返ると、照ファが背もたれを倒した。 「失礼いたします、御主人様」  照ファが熱々のタオルを、台須の顔に被せた。  会場中がほんのりほっこりとした溜め息に包まれる。 「御気分はいかがでございましょうか? 御主人様」  表情の隠れた台須が右手を掲げ、親指を立てた。オーロラヴィジョンに、その親指がでかでかと映しだされる。呼応し、観客席から恒例の「GOOD!」が合唱された。因みに指紋は悪用防止のため、薄らモザイク処理されている。  台須の王道的な闘い方だ。中盤以降に備え、序盤は冷たいプロに徹する。サイコロの目を的確に出すため、神経を消耗するが、狙うのは憩いイベントなので癒される。  それが盤石な戦術だとわかっていても、誰もが実行できるわけではない。 「五年連続獲って化け物ぶりに磨きがかかってんな」  俺は後退りせず、鼻息を荒くする。
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