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刺青師
夜の暗闇を嫌うように街は輝き、その明かりに引き寄せられ人が集まる。
より明るい場所を求め、仲間を欲し、群がる人々はそこらの街灯に寄り付く虫と変わらない。
変わりはしない。
驃は街の騒音にを遠ざけるように、イヤホンで塞いだスマホの音量を上げた。
「ねぇー!おにいさぁん、お店で遊んでかない?」
うるさい
「あぁあ!てめぇ!どこ見て歩いてやがる!」
うるさい…
「くそったれ!邪魔なんだよ!」
うるさいっ…
人ごみから逃げるようにパーカーのフードを深く被ると、裏路地へと入り込んだ。
風俗店の裏では、酔いつぶれた男がゴミのように捨てられている。
パチンコ屋の後ろを通り過ぎ、廃れたビルの横道へ曲がると気味が悪いほど騒がしい街の明かりが遠のいていく。
うざったくなっただけの音楽を止め、イヤホンを耳から引き抜いた。
そのまましばらく、街灯もなく暗い歩道を歩いていく。
「…ここだ」
古い錆び付いたアパートの前で立ち止まった。
風が少し吹くたびに、その壁がガタガタと苛立つように音を立てる。
人が住んでいる感じはまるでしない。
「…ここ、だよな」
スマホを取り出し、送られてきた写真の映像と見比べる。
写真は昼間のものだが、確かにこのアパートだ。
ズボンのポケットから安いタバコを取り出し、口に咥えるとライターで火をつけた。
決して美味くはない。
きついばかりで味は薄い。
肺吸うと咽るので、軽く吹かしながらアパートの階段に足を掛ける。
部屋のドアは三つしかない。
一と、二と…そして三。
三号室の前で立ち止まり、表札もないその扉をノックした。
…
…反応がないので再び強く扉をたたく。
……
誰もいないのか…?
いや、こんなところまで来てすごすご帰るわけにはいかない。
「おい!いるんだろ!…ッ入るぞ!」
鍵が壊れて外れそうなドアノブへ手を掛けた。
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