26人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
ムカつくガキだ。
その口が聞けないよう殴りつけてやる、泣きだしたら止めてやるさ。
拳を握り締めた。
それに気付いたのか、驃の下でそいつは体を硬くし歯を噛みしめて目を瞑る。
その姿に、上で掲げた拳を振るうことが出来なかった。
脳裏に甦ったのは子供の頃の記憶。
ただ耐えることしか出来なかった、力ない自分が目の前にいるようだ。
「っ…クソッ」
腹の中がムカムカして気分が悪い。
全部、こいつのせいだ。
拘束を解くと、咳を吐きながら自身の腕から逃れていく。
シャツの襟が肩からずり落ちた際、その背中にトライバルが入っているのが見えた。
こいつ、背中にも入れてるのかよ。
…肩の龍と同じ刺青師だろうか。
ふと、その服の下に続く模様を見てみたいと思った。
未だ苦し気に咳を繰り返すそいつの両手を掴み取り、頭の上で押さえ付ける。
うつ伏せに寝かせた状態で、ぶかぶかのシャツをたくし上げた。
複雑に絡み合ったトライバル柄に隠れ、翼を折られた美しい女神が胸の前で祈りを捧げている。
憂いを帯びたその表情は儚げで、だがその瞳は愛する者を愛おしむように優しかった。
「……すげぇ…」
思わず感嘆の声が漏れる。
その背を走る左右対称に彫られた刺青も素晴らしいが、ひっそりと祈る女の姿に心を奪われた。
こんな女が本当にいるのなら、ぜひ会ってみたいものだ。
そっと刺青の上を指でなぞると、ビクッとその細い体が小さく震える
「ッ…汚い手で、簣さんの作品に触んじゃねぇ!」
最初のコメントを投稿しよう!