刺青師

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ムカつくガキだ。 その口が聞けないよう殴りつけてやる、泣きだしたら止めてやるさ。 拳を握り締めた。 それに気付いたのか、(しらかげ)の下でそいつは体を硬くし歯を噛みしめて目を瞑る。 その姿に、上で掲げた拳を振るうことが出来なかった。 脳裏に甦ったのは子供の頃の記憶。 ただ耐えることしか出来なかった、力ない自分が目の前にいるようだ。 「っ…クソッ」 腹の中がムカムカして気分が悪い。 全部、こいつのせいだ。 拘束を解くと、咳を吐きながら自身の腕から逃れていく。 シャツの襟が肩からずり落ちた際、その背中にトライバルが入っているのが見えた。 こいつ、背中にも入れてるのかよ。 …肩の龍と同じ刺青師だろうか。 ふと、その服の下に続く模様を見てみたいと思った。 未だ苦し気に咳を繰り返すそいつの両手を掴み取り、頭の上で押さえ付ける。 うつ伏せに寝かせた状態で、ぶかぶかのシャツをたくし上げた。 複雑に絡み合ったトライバル柄に隠れ、翼を折られた美しい女神が胸の前で祈りを捧げている。 憂いを帯びたその表情は儚げで、だがその瞳は愛する者を愛おしむように優しかった。 「……すげぇ…」 思わず感嘆の声が漏れる。 その背を走る左右対称に彫られた刺青も素晴らしいが、ひっそりと祈る女の姿に心を奪われた。 こんな女が本当にいるのなら、ぜひ会ってみたいものだ。 そっと刺青の上を指でなぞると、ビクッとその細い体が小さく震える 「ッ…汚い手で、(あぜか)さんの作品に触んじゃねぇ!」
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