最後の手紙

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 久しぶりに実家を訪ねた。  ほんの数年前までは、両親が孫に会いたがるので、私は子供を車に乗せて高速に乗り、片道1時間の道のりをよく往復したものだ。  だが、子供がすっかり手を離れ、友人たちと一緒にいるのを好むようになってから、実家へ足を向ける間隔はどんどん遠のいていった。  キッチンの勝手口から入って辺りを見回すと、きれい好きな両親によって、相変わらずどこもかしこもぴかぴかに磨き上げられているのが見受けられる。シンクもテーブルも曇りがなく、余分なものが無い部屋は整然と片付いていて、愛想がないくらいだった。  広い庭も同じように、父が欠かさず手入れをしているようで、芝生に混じる雑草もなく、枯山水を模した石を敷いた池にも、落ち葉は一枚も落ちてはいない。花壇には季節の花が咲き乱れていて、いつ見ても写真のように美しい庭だった。  小さなころから汚さないでと言われ続けた私にとっては、キッチンとダイニングに続く居間に腰を下ろす時でさえ、邪魔にならない場所を探してしまうほど、窮屈さを感じさせる家でもある。  大きな庭と大きな家を整然と保つには、常に細かい気配りと体力がいる。  両親はいつもエネルギッシュに働き続けていて、芸術肌の私とは興味を持つものも、行動も違う人種のように感じていた。  でも、その両親が、最近体力が落ちたと電話でこぼすようになり、心配になって、何か月ぶりに実家を訪ねたのだ。  ダイニングテーブルを囲ってお茶を飲み、最近の話に花を咲かせながらそれとなく様子を窺ってみるが、体調もいいようで、差し当たって気遣うことは何もないとほっとする。  和やかな団らんを遮ったのは、郵便配達のバイクのエンジン音が、途切れ途れにあちこちに止まりながら、近づいてくる音だった。家の壁に組み込まれた郵便ボックスの受け口に、郵便物が放り込まれる音がする。
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