最後の手紙

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 父は次々と郵便物に目を通して、要るものと要らないものに仕分けして、一番下にあったはがきの差出人に目を留めると、一瞬口元をほころばせてからそれを裏返した。  途端に驚いたような顔になったが、すぐに表情を隠し、数行しかない文章をなぞるように視線が上下する。ぎゅっと口が引き締まり、ハガキを持つ手が少し震えているように見えた。  父は電話の横に置いてある電話帳を繰り、番号をプッシュした。呼び出し音が鳴る間も緊張していることが、受話器を握りしめて変色している手から伝わってくる。  母も私も口を利かず、新聞を読んだり、パソコンの画面を見るフリをしていたが、神経は電話の相手へと集中していた。父がハッとして姿勢を正す。どうやら相手に繋がったようだ。 「ああ、もしもし、和弘です。佐竹和弘。ああ、手紙をもらったよ。いったいどうしたんだ」  父が頷きながら相手の話を聞いている様子から、相手がまだ元気にしゃべっているのだと分かり、私はほっとして肩の力を抜いた。  ところが、次の言葉でパソコンをいじっているフリもできず、父の背中をじっと見つめてしまった。
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