最後の手紙

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「脳梗塞?ああ、右半身の麻痺でそんなに長い間リハビリをしていたんだ。そうか、それなのに一生懸命書いてくれたんだな。ありがとう」  父の声が詰まって、肩が震えている。いつも背筋をピンと伸ばして、姿勢の良い姿を見慣れているだけに、丸まった背中から父の感情が滲み出てくるように感じた。 「そんなに、連れないこというなよ。これからだって会えるだろ?うん。手紙や年賀状は書けないなら仕方ないよ。また、会おう。会いに行くよ。さよならなんて言うなよ」  父の声が裏返って眼がしらを抑えて会話が途切れた。  私に向き合うときは、いつも心配をかけまいとするのか、元気一杯に振舞って若々しいのに、同年代の友人を失おうとしている今、虚勢も崩れ、父はただの老いた人のようだった。  こんなに痩せていただろうか?私はそっと父を見つめた。  指の脂肪はほとんど無く節くれ立って、シミが濃く浮いている。  先ほど聞いた話では、最近運転さえも覚束なくなり、遠くへ出かけることもなくなったという。友人に会いにいくよと言いながら、それがどんなに虚しい口約束なのか自分で分かっていて、父は泣くまいと必死で歯を食いしばっているように見えた。 「ああ、元気で。またな」  受話器を置く手が震え、こちらを振り向いた父の目は真っ赤だった。
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