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誰も何も言わず、母もさっと席を立って、父のためにお茶を入れてテーブルの上に出す。
父はハガキを手にして、小学生が書いたような文字をじっと眺めていた。
「お父さん。私が運転していこうか?その住所温泉街でしょ?旅行がてら泊りがけで行ってみようよ」
ハガキからパッと目をあげ、父がテーブルをはさんで身を乗り出した。
「ほんとか?連れていってくれるか?」
いつもかくしゃくとして、私の上に君臨していた親は、子供のように期待を込めた目で私を見つめる。私が頷くと、父はサイドボードにあった便せんを持ってきて、ありったけの思いを込めて書き始めた。
友人の最後の手紙への返事は、電話での約束を果たす言葉で締めくくられた。
「待っていてくれ。必ず会いにいくよ」
了
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