45 金銭感覚の無さ

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45 金銭感覚の無さ

これはもう人間失格である 4月5日 午後7時 「おい太田、今日の集金分1000万円金庫に入れて置けよ」 「あ、はい!えー!!」 「なんだ急に慌てて?」 「あ、いえ何でもありません。それよりちょっと外出してきます」 「どこへ行くんだ、今から投資信託のツメをみんなでやるんだぞ!」 「あ、その投資信託を買いたいっていう顧客のところへ行ってきます」 「そうか決めて来いよ!」 「はい!」 あわてて支店を飛び出す太田であったが行き先は顧客の元ではない、さきほど晩飯を食ったラーメン屋である。 実は集金の帰りに寄った馴染みのラーメン屋で現金を置き忘れていたのである。 ラーメンを食いながら少年ジャンプの「北斗の拳」を読んだのが災いした。 あまりにも熱中しすぎてテーブルの下に置いてあった現金のことをすっかり忘れてしまっていたのである。 今はもう皇帝サウザーを恨むしかない。 支店の近くにあったラーメン屋に駆け込むと店長が太田の顔を見てにっこり笑った。 「これだろう?」 と掲げる集金かばんを見てほっとした。 「店長男前!!大好き!!」 心から叫んだと同時に日本の治安の良さに合掌。 証券マンは毎日のようにン千万、ン億の金を扱っているので正直金銭感覚に疎い、というよりバカである。 ましてや相場の乱高下によって一瞬にしてン千万が吹っ飛ぶ世界なのでなおさらである。 「ただいまー」 はあはあと肩で息をして帰ってきた。 「あ、太田早かったな。投資信託決まったのか?」 「え、えっとー、あ、ダメでした!」 全然そんなこと言った覚えが無いので慌てる太田君。 「そうか、じゃあ座ってさっさと電話攻撃しろ」 「おい太田、ホンマはどこ行ってたんや」小声で隣の大久保が声をかける。 「ああ、大久保先輩。実はラーメン屋に1000万置き忘れていて取ってきたとこです」 集金カバンを指差す太田君。 「なんやたった1000万か、おれは昔3000万の小切手落としたことあるで」 「さ、3000万ですか?」 「そうやしかもパチンコ屋でや、小切手やから差し止めが効いたけどな。始末書書いて済んだわ」 「ほえー」 あきれて放心状態になりつつもまだまだ修練が足りない自分を反省した。 「森本次長なんかは詳しくは語らないけどもっと凄い金額をやったらしいぞ」 この日も上には上がいるものであることを痛感した太田君であった。
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