10 自己売買の破綻

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10 自己売買の破綻

4月2日  午後2時30分 「太田、本店株式部から電話だ」 「はい太田です、はい川鉄20万株ですね。いま640円ですね。ええ、638円の2円下で20万株あるんですか。はい!なんとかはめこみます」 電話を切り、顧客に連絡する太田君 「社長、太田です、はい、相場は現在ダウ32500円どころのもみあいです。円高に嫌気をさして主にハイテクが売られ大型株が買われてます。そこで社長とっておきの情報として今、640円の川鉄まとめて20万株買えば2円下の638円で手に入りますが、いかがでしょう?」 社長 「相場より2円下で買えるのか?」 太田 「そうです、大安売りです!!行きましょう!」 社長 「よし分かった、持っているパイオニア全部売って乗り換えてくれ」 太田 「ありがとうございます!!」 ※ 証券会社とて、一法人なので当然会社の資金運用としての株の売買は許されている。 その部門の事を自己売買部門(いわゆるデイーラー)という。 他の一般法人と大きく違っている点は、とにかく売買に手数料がかからない事である。 つまり500円で買った株をわずか501円で売っても1円分はすぐに利益となる。 このことだけでも一般投資家とはすでに大きな不平等が生じている。 一般投資家は株の勝負で絶えず「手数料」というハンディを背負っているのだ! こんなにいい条件にもかかわらず、このディーラーという人種達は完璧に相場をはずす。 見事なまでにはずす! あまりに相場を外しすぎるとデイーラー部の人間は自分の相場観を疑われて場合によっては、左遷ないしは部署変えとなる。 いわゆる島流しだ。 そうなったら困るので、買った株が相場どおりにならなかった場合には、仲のいい営業マンにその敗戦処理をふるわけである。 そんな台所事情もよくわからない営業マンは2円下の玉(ぎょくと呼ぶ)でも、「いいネタ」と思ってすぐに飛び付く。 本当に悲しい性です。 そして最後の尻拭きは当然投資家にまわってくる寸法である。 おそらくその日の川鉄の終値はうんと下がって630円くらいであろう。 引けで買ったほうが8円も得した勘定になる。
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