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一世一代のイカれた男
左手でシーツを握り、右手の人差し指を浅く噛んで声を抑える。
そうしていないと、こんなこと耐えられない。
「ぅ……っ、ぁ、ぐっ……ぁあ、んっ……」
犬のように四つん這いになって、尻を高く上げるこの姿勢は僕が敢えてとっている体制だ。
これで顔を下に押し付けてしまえば。背後で僕を穿つ男に酷い表情を見られずにすむし声だって……。
僕、瀬上 誠(せがみ まこと)は村瀬 恭介(むらせ きょうすけ)に抱かれている真っ最中。
「きょ……すけっ……ぁ、あっ……もうっ……」
「ッ……ん、もう、ちょっ、……我慢、な……っ」
堪らなくなって立てたが崩れそうになると、熱く大きな手が僕の腰を強く掴んで尚もいっそう打ち付ける。
衝撃に思わず悲鳴のような泣き声を上げて目の前のシーツに縋り付くが、その律動は容赦なく僕を追い立て追い詰めていく。
「やっ……っ、ぅ……ッ……ぁ……くゥっ……」
的確に弱い所を突いてえぐっていく彼の手管に溺れ崩される。
……縋り付きたい、こんな無機質なシーツじゃあなくて、恭介の体温に。柔らかいんだか硬いんだか分からない、僕みたいな男を抱くイカれた男の身体に腕を回して爪を立ててやりたい。
そして思い切り罵って……。
「……っはぁ、誠、もうっ……」
「っひぁ、ァ、あっ、ぅ……ぁ……ッッ!」
いっそう強烈な突き入れ。
目の前が白く弾け、声なき声で絶叫するように達し……おちた。
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すっかり更けた夜の空がマンションの一室の窓から見える。
中途半端に膨らんだ月は満ちるわけでも、鋭利に欠けている訳でもない。
倦怠感に支配された身体で、ベッドに横たえた身体は指一本動かすのも億劫だ。自由になるのは呼吸くらいか。
それも先程まで制限されるように乱していたのだが。
―――さて。
僕達がこんな関係になったのは随分前のことだ。
仕事と恋で疲れ果てて自暴自棄になった僕。
そこに付け込んできた、史上最低ヤリチン男である恭介に酒で酔わされラブホテルに連れ込まれ、挙句処女を食い散らかされた。
まぁ被害者ぶるのも違うかもだけど、とりあえずセフレ状態が半年。
それからまぁ色々あって現在。
一応……恋人? という立ち位置らしい。
「なんで誠、顔見せてくんないの」
「はァ? ……意味わかんねぇ」
散々組み敷かれてようやく解放された僕は、口を開いて声が少し掠れていることに気付いて眉を顰めた。
……正直もう休ませてほしい。元々ピロートークって苦手なんだよ。
あー。もう少しだけでも離れてくれないかなァ。こいつ体温高いから暑苦しくて仕方ない。
ただでさえ気怠いのに、これから今夜のプレイの反省会でもしようって言うのかよ。
あんまり広くないベッド。彼に背を向けて寝る僕の背を覆うように密着する彼が、鼻を首筋に埋めるような仕草をしてくる。
その臭いを嗅ぐ犬のようなのもやめて欲しい。なんだか荒い息がかかって不穏な気分になるんだけど。
「エッチしてる時、誠ってなんでいつも顔隠すのって」
「別に……いいだろ」
見られたくないんだから。
なんで見られたくないかって? 当たり前だろ。羞恥心ってやつ。
今まで女としか付き合った事ないから分からなかったけど、自分が抱かれる立場になるとその姿を見せるのって、すごくその……怖いんだよ。
全て曝けだすなんて。しかも曲がりなりにも好きな人に対して、だぜ? そこまでまだ吹っ切れられない。
でもこんな事素直に言えば、少しSっ気のあるこの男がどんな思考行動をとるか……考えるだけでも怖気が立つ。
それに僕は彼を好きだけど、彼が僕を『どういう意味』で好きかは分からないんだよなァ。
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