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「……誠さ。また変な勘違いしてない?」
「変なって」
不機嫌そうな低い声が耳元で囁く。
いい加減本当に寝かせてくれ、と思いながらも生返事を返してやる僕って親切だと思う。
回された腕が頬に伸ばされて案外器用な指が目元を優しく触れる。まるで小動物を撫でるように慎重に。
それが心まで擽ったいようなムズムズ感が束の間の幸せを僕に注いでくれる。
彼とこういう関係になって、ようやくこの行為の意味と楽しみを少しずつだが覚え初めていた。
まぁそれでもやはり苦手なのは苦手で、眠たいのは眠たいのだけれど……。
「俺、誠のことちゃんと好きだよ。愛してるし、恋人だって思ってる」
「なんだ、今更」
恭介の声は真剣そのもので、決して嘘をついていたりその場限りの事を言っているようには思えない。それは僕だって分かっている。
それでもやはり思うんだよなァ。
……彼の考える『好き』や『愛している』のは僕のそれとは違うんじゃあないかって。
恭介は女性経験がとても豊富だ。
その優れた容姿とスタイルで女性にモテまくることもあって、歳上である僕の何倍もの女達と付き合ってきたらしい。
しかし恭介には大きな欠陥というか、イカれた部分がある。
この男、世間一般の『デート』というものを今まで碌にした事がなかったというんだ。
いわゆるセフレ関係しか結んで来なかった。付き合うとはそういう事だと思ってた。
……そんなことを平然と言う奴が、僕の恋人な訳だが。
「もしかしてまだ俺が誠のこと、セフレ扱いしてるって勘違いしてるんじゃあないかなって……」
「あー……」
ああ、してたさ。だって仕方ないだろう。
当時逢瀬は月に一度でラブホだぜ? これをセフレと言わずなんて言うんだ。しかもちゃんと告白されたのはついこの前だし。
まぁそれだけじゃあないけどな。
「今はちゃんと会ってるだろ?」
「まぁ確かに」
月に1回、なんてふざけた間隔ではないな。連絡もそれなりに取り合うし。
でもな。
「セックスが月に一度から、週に一度に増えただけだろうがよ!」
そう。そうなんだ。
やってる事は変わってない。むしろ僕の身体的負担は格段に増えた。
月に一度金曜日、彼は仕事帰りの僕を拉致する勢いで自分のマンションに連れ帰って抱き潰す。
碌に動け無くなるまで週末はほぼ、セックス漬けにされる。
これってセフレより酷い、半ば性奴隷なんじゃあないかって最中に思って少し泣けたりするんだからな。
「デート、そりゃあ俺だってしたいけどさ」
僕に詰られた彼は、また不貞腐れたような声で呟き腕に力を入れる。
ああ、また嫌な予感しかしない。出来るだけ身体を離そうと身を捩るがどうにもならない……このバカ、筋肉多すぎるんだ。
「……俺は、誠の存在がエロすぎるのがいけない。と思うんだよ」
「はァァッ!? 意味不明な理屈でテメェの下半身事情を人のせいにしてんじゃあないよ。この絶倫馬鹿ッ!」
「え、絶倫? えへへへ」
「褒めてない!」
こうしている間にも、また腰に擦り付けられるモノが……うっわ、硬い。こいつ本気か。
「おい……当たってる」
「当ててるからねぇ」
飄々とした声のあと、恭介の舌がベロリと首筋を舐めた。
「ヒッ……ば、馬鹿。まさか」
「ごめーん。もう1回、ヤろ」
軽い口調の割に鼻息が荒い。
こうなるとすごく怖い。また朝まで責め立てられるのだろうか。
「や、やだっ! 散々やっただろ」
「だと思ったけど足りなかった。ほら、俺若いから」
若いよ。確かにこいつは若い。大学生だからな!
でも僕だって20代半ばの世間では文句なしの若者だ。それでもこの体力や精力には到底勝てない。
恐らく大学生の頃の僕でも適わないと思う。つまり恭介が規格外なんだよ。
だから毎回、もう許して壊れると泣いて懇願する羽目になる。
「へ、変なとこ触んな……っう……ん、」
彼の手が僕の腹を摩り上に。胸の方に伸びていく。
その不埒な手を叩き落とそうとする前に、素早く先程までしつこく愛撫していた乳首を摘み上げ、クリクリと刺激する。
「んーっ、ん? 変なとこってー?」
「ぁ、んんっ……ん、ぁ……やっ、だからぁっ……」
途端身体の力が入らなくなって、下腹部に熱と刺激が伝わっていく。無意識に足を擦り合わせ、息が上がってしまうのは恭介が僕に散々教えこんだからだ。
……男の胸がこんなに感じるなんて、この前まで知らなかったのに。
「ほら。こういう姿が俺を惑わしちゃうっての」
「ぅくッ……!」
突然胸から離した手は僕の浅ましくも兆し始めたソコに這わされて、悲鳴を上げそうになった。
さらに尻臀に挟むように彼の完全に怒張したソレを押し当てられ。抵抗の為に制止した手も、もう片方の腕に押さえつけられる。
「や、やだっ……きょぅ、すけぇっ……あぁっ……」
「あはは、可愛い過ぎ」
―――ああ、今週末もベッドで過ごす羽目になりそう。
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