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まぁ俺も悪かったんだ。目の前の可愛い恋人に22歳の性欲が爆発しちゃってさ。
だから会う度にベッドに引っ張りこんでいたのは反省。
俺だって、自分の経験してきたことが普通でなかったというのは薄々感じていたよ。デートとかそういうのした事ないのはあんまり一般的じゃないんだろ?
それを聞いてもあんまりピンと来なかったけどね。
でもそれで恋人を不安がらせていたのは予想外だった。しかも浮気相手の出現で、危機感を持って実感させられたのがなんとも言えないな。
……いつものように軽く誠を尾行して、男と一緒に雑居ビルの中に入って行った時はもう気が気じゃなかった。
なんせその場所は桐林 陸斗の兄貴がやってる店だし、こっちとしては誠にバレたらまた拗ねるだろうって事で外で待っててやったんだ。
そしたら……完全に酔い潰れた彼を抱き抱えるようにして俺の目の前に現れたものだから。
殺してやろうかと一瞬思った。
でも寸でのところで留まって、強く睨みつけるだけにしてやったよ。まずは彼を返してもらわなきゃいけないからな。
『……あんたが彼氏さん?』
開口一番挑発的なその男は、まぁ俺に言わせると気合いが足りない。間男は最低でも殴られる覚悟くらいしとくもんだぞ。
でも緊張感の全くない軽薄な笑みを浮かべて、男は言った。
『先輩、あんたのせいで泣いてたよ』
泣いてた、彼が? いつも俺の言葉に苦い顔で嫌味と文句で返してくるこのツンデレがか。
おお、そうか。ツンデレだからデレたのか。
でもデレるなら、恋人の前でデレなきゃ意味ないだろうに。
内心ニヤついた俺に、男は釘を刺すように再び挑発的な口調で宣言する。
『あんたが本気で先輩のこと大事にしないなら、オレが貰うけど』
貰うって……誠はものじゃあないんだぞ、と言いたいところだけど。俺も人のこと言えないからなぁ。
ただ頷くだけにした。
『彼の身体、そんなにイイのか』
そう言って今度は露骨に抱き抱えたその腰を撫で回して見せるものだから、こっちは頭の中が沸騰したみたいになる。
気安く触るんじゃねぇぞ、と怒鳴りつければ。
『しーっ、起きちゃうだろ。そう言えば。さっきオレ、この人にチューしちゃった』
そう笑って左腕で彼の身体を支えながら、右手でその顎を掴んで唇同士を触れ合わせた。
そっと合わせて、すぐに離して。そしてニヤリと顔を歪める。
『ね。分かるだろ、今は先輩もあんたを愛しているかもしれないけど。ちゃんと大事にしてあげないと……あんたが変わってやらないと、彼のその気持ちすら変わっちまうよ? なぁ、分かるだろ』
最後の方は諭すような物言いだった。
俺も、歳もそこまで変わらない奴に説教されるとは思っていなかったが……まぁ言っている事は分かる。
……俺は、誠の優しさに甘えていたらしい。
口で身体でいくら愛を囁いていても、彼が本当に求めるものが分かっていなかったのか。
『ほら。さっさと連れて帰んなよ。先輩、さっきからあんたの名前ばかり呼んでる』
―――引き渡された彼の身体は、数日前より少し軽く感じる。
これも俺のせいだろう。責任を取らねば、と心に誓いながら桐林とかいう男に形だけの会釈をして彼を家に連れ帰った。
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