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突き飛ばされるように押し倒されて、学生の一人暮らしのくせにやたらしっかりとしたベッドに背中を預けた。
……恐ろしく性急だ、と揶揄することも躊躇われる程の鋭い目付きはまるで僕を食い尽くすよう。
まるでかじかんだように震える指で、お互いに服を寛げ脱がせ合う。
灯りをしぼった薄暗い室内では、わずかな衣擦れの音と彼の荒い吐息が響いた。
きっと僕の息も鼓動も、馬鹿みたいに大きいのだろうと思うけれど改めて聞く余裕もない。
まさぐる手に暴かれた肌が視覚にも刺激的だ。
「もっ、もう……シャワー、浴びさせろ、よ」
目の前の美しく完璧な裸体から目を逸らしながら、わざと不機嫌そうな声で呟けば。
「一緒に入ろ」
と相変わらず軽薄そのものな言葉に、舌打ちしたくなる。
「ヤダ。絶対ヤダ」
セフレの時から言ってるけど、受ける側には準備っていうのがあってだな。突っ込んで揺さぶって出すだけのそっちと一緒にして欲しくないわけ。
ちゃんと清潔にしたいし。こういう作業は一人でさせて欲しい。共同作業にするにはエグすぎる。
「えー、誠ってば。いつもそればっかりぃ」
可愛こぶっても全然可愛くない。むしろキモいしウザい。
なんでこいつ。こうやって馬鹿みたいにおどけてるクセに……顔が、怖い。
知らず知らずのうちに身震いしていたらしい。
『寒い?』なんて聞かれて、その瞳のままさらに覗き込まれて触れるだけのキスを落とされて。
「でも今日は、一緒にね……お仕置きってことで」
「お、おし、おき?」
呆けたように言葉を繰り返して、その意味を図り兼ねる。僕はお仕置きされるような事……したな。
「!」
反射的にベッドからはね起きた。
身を翻して逃げを打とうとした瞬間、それより早く伸ばされた腕に絡め取られるように再び引き倒される。
「っと! 危ないなぁ……どこ行くの」
「い、いや。ちょっと、その、野暮用で」
「ふぅん?」
……ああ、怖い。突き刺さるような視線が。
さっきまでの甘い雰囲気はどこへやら、いや恭介の顔は笑っているけど。顔だけだ。目が全然笑ってない!
こりゃ全部バレてる。後輩に相談した事とか、昨日のこのこ彼について行ってキスされた事とか。
……べ、別に誓って言うけどキスまでだからな! そのあと普通に家に帰ったと思うし。いつの間にか着替えて寝床に入って寝てたのは不可解だけど、多分自力で着替えたんだと思う、多分。
じりじりとシーツの海を這い回りながら、その鋭い視線から逃れるように目を逸らす。
「ねぇどうして逃げるの。俺の事、嫌い?」
「き、嫌いなんかじゃあ……」
決して嫌いじゃあない。むしろその逆だ。でも、その罪悪感とか憤りとか色んな感情が合わさって訳わかんなくなる。とりあえずその笑ってない目を何とかしてくれないか。
「ほらほら、シャワー浴びたいんでしょ? 一緒に行こうな」
また例によって軽々と荷物のように抱き抱えられ、やめろと喚き散らして暴れても両脚を纏めて抑えられたら最後。
「やめろって。離せぇぇッ、このケダモノ!」
「あははは。そのケダモノに夢中なくせにぃ」
「うっせぇ! 変態! 夢中ちゃうわっ」
「俺の事考えて泣いてたくせにぃ」
な、なんで知ってんだこいつ……まさか、どっかに盗聴器とか……まさかな。
ヤバい。本気で怖くなってきた。好きだけど怖い……うゎゾクゾクする。
なに、僕ってMだったのかよ。この年でこんな性癖知りたくない。
―――そんな思考も浴室のドアを開けられた音で中断された。
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