一五一十の心理

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「う、浮気したら、別れる、のかよ……」 ようやくそれだけ言葉を振り絞った。 ……もしあのキスが黒なら、僕は立派な浮気者だ。今ここで別れを切り出されても仕方ないのかもしれない。 いくらか下がった熱と反対に熱くなった目頭に、動揺しまくってる自分に気付く。 嫌だ、別れたくないと涙ながらに縋れば多少可愛げがあるのだろうか。今の僕にはそんな事死んでも出来ないだろうけど。 「え。誠、馬鹿なの?」 「!?」 「別れる訳ないじゃん。俺が、なんで、お前を、手放さなきゃ、いけないの?」 一語一語。彼の口から区切りながらも流暢に紡がれた言葉に、ついていけず間抜け面していたと思う。 つまり、別れる事はないってことなのかな。 泣き出しそうな、いやほぼ泣いてた僕を見て哀れになったのか。彼は瞳の色を和らげて言った。 「俺も悪かったんだよな。だから他の男と『デート』しちゃったんだなぁ」 「あー。あれはそういう意味じゃあ……」 本当にただ後輩と飲みに行っただけなんだけど。むしろ仕事の一環というか、円滑なコミュニケーションというか。華子さんと行くのも変わらないだろうに。 「うんうん、分かってる。分かってるよ。俺はぜーんぶ分かってる。お前には自覚がね、なかったんだ……俺のモノだっていう自覚が」 「は、はァ? 僕が君のモノだって!?」 自惚れるのもたいがいにしろよ、と怒鳴りつけたかった。でも言葉が続かない。もしかして、心のどこかで願ってるのだろうか。この縛り付けるような関係を。 「そろそろ素直になって。誠が浮気しちゃったのも、俺が至らなかったと反省しているんだ……もっと縛っておけば良かったのかなって」 「ちょっ、ちょっと待て! 意味が分かんないぞ……っ」 唐突に病むなよ! しかもやっぱりさっきより恍惚の表情を浮かべていて、怖さが倍増した。 これがヤンデレか……もしかして僕の恋人、とんでもないイカれた奴なんじゃあないのか。 ゾワゾワと悪寒に似た感覚が這い上がり、締め上げられた腕が痛む。 確かに僕は自覚が足りなかった。 頭おかしい奴が恋人だっていう自覚が、だけど。 「二つ目の質問……俺の事、好き? 愛してるでしょ?」 ―――僕は、震えながらも頷いた。 この病んだ男にすっかり夢中だったみたい。 ……頭がおかしいのはお互い様、なのかもしれない。なんて思いながら。
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