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「あ。誠君おはよ!」
「おはようございます、先輩」
いつもより少し早く出社した僕に、外の鬱々とした空気も憂鬱な月曜日もなんのその。太陽のように明るく声をかけたのは先輩の茶九 華子(さきゅう はなこ)さん。
「あらあらあら……週末もお疲れ様」
小柄な彼女は僕を見上げて心底気の毒そうに、でもどこか冷やかすような楽しげな声色で言った。
華子さんは僕と恭介の事も馴れ初めも全て知ってる、数少ない相談相手だ。
仕事でも入社当初から世話になって、プライベートでもってこと。
僕って人に恵まれてるんだよ……恋人以外はな。
「まぁ、いつもの事ですけど」
目を逸らしつつもそんな風に受け答えできるようになったのは、この生活に慣れ始めたってことでもある。性欲過多でどこかイカれた恋人を持つ、男の苦労ってやつだ。
「お熱いのねぇ、羨ましいわ」
「いえ。そんな……で、先輩の所はどうなんです?」
冷やかされた意趣返しではないが、同じように聞き返すと彼女の方は茶目っ気たっぷりにウィンクひとつ。
「お陰様で。ラブラブよ」
引越しの準備はなかなか進まないけど……と、彼女は眉を下げたがその表情は幸せいっぱいだ。
華子さんの恋人は女性、つまり彼女達もまた同性愛カップルということ。だからこそ僕は彼女になら、と恭介の事を話すこともあったし、逆に華子さんから相談と惚気と愚痴を聞くこともあった。
彼女はもうすぐ仕事を辞めて、恋人……なんと外国の方でそのカノジョの祖国であるアメリカに行くらしい。
その件に関しても以前多少なりとも相談に乗った僕としては、なんだか感慨深い反面単純に寂しい。
さらに仕事は引き継ぎもそろそろ大詰めで、華子さんと働けるのもそんなに長いことないのだ。
「ま、うちの両親にはまだちゃんとカミングアウト出来てないんだけどね」
肩を竦めて言う彼女に、僕は軽く頷くに留めた。
こういったデリケートな問題に軽々しく言葉をはさむのはどうかな、と思ったから。
「誠君の所は?」
「僕ですか? うーん。それ以前というか」
まだ付き合う事になってからセックスぐらいしかしてないから。むしろそれが悩みなんだけど。
「もしかしてなんか悩んでる?」
「まぁ……」
さすがに会社で言い難い。
『彼氏が身体ばかり求めてきて、自分が都合のいい男になってるんじゃあないか』なんていう悩みなんて。
……言葉を濁した僕に、華子さんは心得たとばかりに軽く頷いた。
『今度改めて聞くわね』という言葉とともに。
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