嫌よ嫌よも二割好き

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「あのねぇ。いつもいつもいつも言ってるけど……誠君はどうしても一人で抱え込んじゃうのね」 「僕。抱え込んで、ます?」 入社当時からずっとそうで、仕事でもよく叱られるけど最近は全然自覚ないんだけどなァ。 華子さんは深々とお酒の香りのする息を吐いて、大仰に天を仰いだ。 「自覚ないの? まず仕事でも、桐林君も言ってたわよ『頼りないかもしれないけどもっと後輩である自分を頼って欲しい』って」 「あの彼が?」 「そ。あのワンコちゃんが」 今度はくすくすと笑いながら彼女は肩を竦めた。 なんだか彼女、いつもより早く酔い始めたんじゃあないか。少しだけ心配になってきたぞ。 さり気なく水を勧めながら、僕は華子さんの掲げた酎ハイのグラスを眺めた。 「あれ、誠君君のこと相当好きよ。あたし、貴方の趣味とか好みのタイプ聞かれたもん。本人に聞きなって突っぱねちゃったけどぉ、うふふふっ」 「へぇ……あいつがねぇ」 そりゃあ懐かれているのは知ってたけど。 やたらあのキラキラした目で寄ってくるし、昼食もしょっちゅう一緒に行きたがる。あー、この前休みの日の予定聞かれたっけ。 当然、恭介の事があるからさり気なく忙しいと伝えたけど。桐林って奴は、ああ見えて……。 「新しい職場に慣れようと頑張ってるんですね」 マイペースにしてても、あの性格と容姿で人を惹きつけるのになァ。まぁ頑張り屋なのは素晴らしいし、その頭の回転の良さにも期待してるけど。 「……」 「あれ。華子さん?」 突然彼女の反応が消えて、そっちを見ればテーブルに軽く突っ伏している姿を見て肝を冷やした。 「ちょっ、どうしたんですか。気分悪いですか!?」 やっぱり今日は酒を控えさせるか止めさせるべきだったかなぁ。 そう思ってそっちに回り込もうとする。 「誠君!」 「!!」 急に顔を上げた華子さんに驚き、思わず仰け反った。 「貴方ねぇ……鈍すぎ! すっごい鈍い! いつか痛い目見て泣いても知らないわよっ、もうぉぉッ」 「えぇぇ、なんですか一体……」 『最近の若い子は』とか『無防備すぎて心配』『心配過ぎて渡米するのが心痛い』とかブツブツ言いながら、僕の飲んでた烏龍茶ひったくって飲んでいる。 「は、華子さん大丈夫?」 恐る恐る声をかけると、少し落ち着いたのか彼女は荒々しいため息をひとつ。 そして妙に悟ったような顔で。 「こりゃあ1回痛い目見た方が良いかもねぇ……」 なんて不穏極まりない言葉を吐いて、僕を震撼させた。
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