出会い

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出会い

小学生のとき、私には「森本 結菜」という大親友がいた。容姿端麗で、頭脳明晰で、優しい女の子だった。それに比べ、「元村 友紀」もとい私は、お世辞にも可愛いとは言えず、成績は中の上くらい、人に優しくできない少女だった。 中学生になって、私は地元の公立中学校に通い始めた。彼女は難関と言われる市立中学校に受かった。 家が近い私たちは、向かうところは違えど、道端でばったり出会うことも多かった。 そんな時、可愛い制服に身を包んで、私の記憶より少し大人になった彼女を見て、自分が嫌になるのだった。 それから、登下校の途中以外には、彼女と顔を合わせなくなってしまった。 私がやっとの思いで高校生になると、風の噂が耳に入ってきた。 彼女がアイドルとして活動をしているというのだ。それだけならいいが、その忙しさに伴い、不登校になってしまっているらしい。私はその話を聞いて変に納得してしまった。私を自己嫌悪に陥らせるほど可愛い彼女を、業界が放っておくわけがないのだ。 私は既に色々なアイドルのファンであり、彼女の活動も気になってしまった。 インターネットで情報を漁り、彼女がとあるアイドルグループの一員であることを突き止めた。 同時に、私の心臓が止まりそうになった。 彼女が所属しているというアイドルグループを、私はよく知っていた。私は既にそのグループのファンだったのだ。つい先日もライブに参加したばかりだ。そして、私はアイドルとしての彼女のこともよく知っていた。彼女は本名を使わず、偽名で活動していた。私の推しメンの正体は彼女だった。 私は、抽選が始まったライブチケットを申し込んだ。彼女に会いに行くことにしたのだ。 チケットは難なく当たり、私は当日、心を踊らせながら会場に向かった。 いつも通りライブを楽しんだ私は、握手会の列に並んだ。長い列の向こうには、私の推しメン、かつ私の大親友である彼女が立っている。 今まで、彼女のことに全く気が付かなかったという訳ではない。このアイドルグループが好きになった頃、彼女に似ているメンバーを見つけて気になり、それから推しメンになったのだ。自分の推しが昔の大親友本人だったら、そんな妄想を膨らませることもあったが、まさか本当に彼女だとは思っていなかった。 列がどんどん前に進んで行く。握手会は流れ作業だ。いかに言葉をまとめて話しかけるかが勝負になる。頭の中でセリフを用意したところで、私の番が回ってきた。 「ゆいなん、久し振り」 彼女は「森本 夏凛」という名前でアイドル活動をしている。彼女の本名など、まず大抵のファンは知らないであろう情報だ。 さらに、小学生の時から「ゆいなん」と呼んでいたのは私だけだった。これでお互いが何者かはっきり分かるだろう。 私がその名を小さく口にすると同時に、彼女本人や周りにいた他のメンバーの表情が固まった。 「……来てくれてありがと、友紀」 彼女が私の手を取りながら優しく笑うと、他のメンバーも安堵の表情を浮かべた。私が彼女の手を離して立ち去ろうとすると、彼女は私に言った。 「また来て!」 私は嬉しくなって答えた。 「もちろん!」 人気アイドルとそのファン。二人の間には大きな壁ができてしまったかと思われたが、実際はそうでは無かった。 あの握手会以来、彼女と私はまた、よく話すようになっていた。 彼女は、どうやってアイドルになったかという話や、グループに入ってからの話、さらにはちょっと迷惑なファンの実情まで私に話してくれた。 私も、彼女達のグループのファンになった経緯や、ファンから見ての印象などを彼女に話した。私が提案した意見が彼女を通してグループまで届き、ついには反映されてしまったこともあった。おかげで、ファンが要求していることを見事にやってのけると話題になり、彼女達は有名になっていった。 私も相変わらず、彼女の手には頼らずにチケットを手に入れ、勝手にライブに行っては本人に感想を伝えている。 所詮、私の妄想だった、「推しメンが昔からの大親友」というのが現実になってしまったというわけだ。 この幸せなファン生活も、小学生のころ彼女と出会えたおかげ。そして、アイドルとしての彼女と出会えたおかげだ。 人の出会いとは奇跡の連続だと、つくづく思わされるのだった。
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