283人が本棚に入れています
本棚に追加
「何度も、はずそうとしたんだけど…取り方がわからなくて……弄っているうちに血も出ちゃって……」
菜摘の身体が震えている。
ニップルピアスの周りには、血の跡がたしかに残っていて……出血したことによって、怖くなってしまったのだろう。
「かーくんなら、ピアス詳しいと思って……。おねがい、これ、はずして……」
羞恥と恐怖に襲われたのか、菜摘がぼろぼろと涙をこぼしはじめた。
カゴメは「動かないでね」と優しく声をかけながら、左胸に手を伸ばす。
慣れた手つきでピアスをはずし、そして自身のバッグからガーゼと消毒液を取り出した。「沁みたらごめん」と言いながら、傷口を消毒し、ガーゼをあてていく。
「消毒液、いつも持ってるの……?」
「まあね。オレ、ピアスあけるの上手いらしくて、よく頼まれるんすよ。万が一、失敗したときのために消毒液もガーゼも常に持ってるんす」
これでよし、と傷口の手当てを終える。
菜摘はやっと涙が止まってきたようだ。
ニップルピアスは見たことのあるデザインで、カゴメの店で扱っているブランドのものだった。
「傷になってるけど、しばらくすれば塞がるっす。あまり触らないようにしてね」
カゴメは菜摘の頭を撫でながらそう伝える。
菜摘はコクコクと無言で頷いて、それからカゴメをじーっと見つめ……目を合わせていると、再びブワァっと涙をこぼし始めた。
「な、なっちゃん?! どうしたんすか、痛かった?!」
菜摘は首を横に振る。ボロボロとあふれる涙を袖で必死に拭いながら、菜摘はゆっくり話し始めた。
「嫌われてもいいやって、思ったの……」
どうやら、ニップルピアスを見られることに抵抗があって。
恥ずかしいし、怖いし、嫌われるかもしれない。
でも覚悟を決めてカゴメにそれを晒したようだ。
「だけどね、やっぱりイヤだ……嫌われたくない、幻滅されたくない……」
「泣かないで、なっちゃん。大丈夫、嫌わないっすよ」
「うぅ~…ごめんなさい……ごめんなさい~」
子供みたいに大きな声で泣き出してしまう菜摘を、カゴメはぎゅっと抱擁した。ひっく、ひっく、と肩を上下しながら必死に息を吸い込んている。
「ゆっくり呼吸してごらん」と言いながら背をさすってやると、しばらくして菜摘は泣き止んだ。
「どうして、ピアスをあけたんすか?」
菜摘が落ち着いたのを確認してから、カゴメは尋ねた。
「わからない……覚えてない……」
「自分の意志じゃないってことっすね?」
こちらの問いに、菜摘は否定せず口を噤む。
何か言えない事情があるようだったが、カゴメは菜摘に向き合いながらいくつか質問を続けた。
最初のコメントを投稿しよう!