3杯目

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「何度も、はずそうとしたんだけど…取り方がわからなくて……弄っているうちに血も出ちゃって……」  菜摘の身体が震えている。  ニップルピアスの周りには、血の跡がたしかに残っていて……出血したことによって、怖くなってしまったのだろう。 「かーくんなら、ピアス詳しいと思って……。おねがい、これ、はずして……」  羞恥と恐怖に襲われたのか、菜摘がぼろぼろと涙をこぼしはじめた。  カゴメは「動かないでね」と優しく声をかけながら、左胸に手を伸ばす。  慣れた手つきでピアスをはずし、そして自身のバッグからガーゼと消毒液を取り出した。「沁みたらごめん」と言いながら、傷口を消毒し、ガーゼをあてていく。 「消毒液、いつも持ってるの……?」 「まあね。オレ、ピアスあけるの上手いらしくて、よく頼まれるんすよ。万が一、失敗したときのために消毒液もガーゼも常に持ってるんす」  これでよし、と傷口の手当てを終える。  菜摘はやっと涙が止まってきたようだ。  ニップルピアスは見たことのあるデザインで、カゴメの店で扱っているブランドのものだった。 「傷になってるけど、しばらくすれば塞がるっす。あまり触らないようにしてね」  カゴメは菜摘の頭を撫でながらそう伝える。  菜摘はコクコクと無言で頷いて、それからカゴメをじーっと見つめ……目を合わせていると、再びブワァっと涙をこぼし始めた。 「な、なっちゃん?! どうしたんすか、痛かった?!」  菜摘は首を横に振る。ボロボロとあふれる涙を袖で必死に拭いながら、菜摘はゆっくり話し始めた。 「嫌われてもいいやって、思ったの……」  どうやら、ニップルピアスを見られることに抵抗があって。  恥ずかしいし、怖いし、嫌われるかもしれない。  でも覚悟を決めてカゴメにそれを晒したようだ。 「だけどね、やっぱりイヤだ……嫌われたくない、幻滅されたくない……」 「泣かないで、なっちゃん。大丈夫、嫌わないっすよ」 「うぅ~…ごめんなさい……ごめんなさい~」  子供みたいに大きな声で泣き出してしまう菜摘を、カゴメはぎゅっと抱擁した。ひっく、ひっく、と肩を上下しながら必死に息を吸い込んている。  「ゆっくり呼吸してごらん」と言いながら背をさすってやると、しばらくして菜摘は泣き止んだ。 「どうして、ピアスをあけたんすか?」  菜摘が落ち着いたのを確認してから、カゴメは尋ねた。 「わからない……覚えてない……」 「自分の意志じゃないってことっすね?」  こちらの問いに、菜摘は否定せず口を噤む。  何か言えない事情があるようだったが、カゴメは菜摘に向き合いながらいくつか質問を続けた。
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