2杯目

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* 「はあ……」  今日、何度目のため息だろうか。  数えてはいないけど、ため息が止まらない。  初めの頃は涙も止まらないくらい、ここ数日間、ずっと憂鬱だった。この前の出来事がまるで悪夢のように菜摘を苦しめる。考えたくないのに、忘れることができないのだ。  今日も憂鬱な時間を過ごしながら、気づけば放課後。  帰り支度をして、学校を後にする。  学校でひとり行動を好む菜摘の所為ではあるのだが、相談できるような友達はいない。  生徒会メンバーだって、そこまで深い付き合いじゃないし…。  杏莉の事も、綾乃の事も、或斗には相談していなかった。 (或斗には心配かけたくない)  それに、或斗のパートナーである朝比に知られるのは、絶対嫌だ。  菜摘は、正直朝比のことがあまり好きじゃない。というかむしろ敵対視してる。弱い所なんて絶対に見せられない。  いつもならカゴメがいてくれるのだが……もう、彼には頼れなかった。 (かーくん……)  恋人にはなれなかったけど、今でも大好きだ。  大好きだからこそ、彼の幸せの邪魔にはなりたくない。  だけど……杏莉と幸せになっていくカゴメを、パートナーとして近くで見守る自信はなかった。 (僕には、無理だ……)  まだ自分が子供なだけかもしれないけれど……。  2番目であることを我慢できるほど、菜摘の心は強くなかった。 「はあ……」  とぼとぼと、薄暗い商店街を抜け帰路に就く。  そういえば……しばらくカゴメに会っていない。  バックヤードの一件もあり、どんな顔をして会えばいいのか分からないのだ。ふたりはこちらに気づいていないようだったけれど、気まずいものは気まずい。 (あーあ。今度はいつ会えるかな。会いたいような、会わない方がいいような……)  きっと、会ったら好きな気持ちを再認識してしまう。  だったらこのまま、会わずに姿を消してしまいたい。  けじめをつけられないあたりが、まだ子供なんだなぁ、と思いながら重い足を進めていると……。 「やっと見つけたで~。なーつみくんっ」  あまり心地よくない声が、菜摘の心臓を跳ね上がらせた。  振り返ると、車のヘッドライトがこちらを向いていて。  逆光に照らされた杏莉が、仁王立ちしているのが見える。  なんですか、と問うより早く。  菜摘は背後から誰かに押さえつけられて……口も塞がれた。  あまりの手際の良さに、菜摘はなす術もなく。 「会いたかったでぇ。ほな、いこかー」  杏莉の掛け声によって、あっという間に車に押し込まれてしまったのだった……。 *
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