283人が本棚に入れています
本棚に追加
*
「はあ……」
今日、何度目のため息だろうか。
数えてはいないけど、ため息が止まらない。
初めの頃は涙も止まらないくらい、ここ数日間、ずっと憂鬱だった。この前の出来事がまるで悪夢のように菜摘を苦しめる。考えたくないのに、忘れることができないのだ。
今日も憂鬱な時間を過ごしながら、気づけば放課後。
帰り支度をして、学校を後にする。
学校でひとり行動を好む菜摘の所為ではあるのだが、相談できるような友達はいない。
生徒会メンバーだって、そこまで深い付き合いじゃないし…。
杏莉の事も、綾乃の事も、或斗には相談していなかった。
(或斗には心配かけたくない)
それに、或斗のパートナーである朝比に知られるのは、絶対嫌だ。
菜摘は、正直朝比のことがあまり好きじゃない。というかむしろ敵対視してる。弱い所なんて絶対に見せられない。
いつもならカゴメがいてくれるのだが……もう、彼には頼れなかった。
(かーくん……)
恋人にはなれなかったけど、今でも大好きだ。
大好きだからこそ、彼の幸せの邪魔にはなりたくない。
だけど……杏莉と幸せになっていくカゴメを、パートナーとして近くで見守る自信はなかった。
(僕には、無理だ……)
まだ自分が子供なだけかもしれないけれど……。
2番目であることを我慢できるほど、菜摘の心は強くなかった。
「はあ……」
とぼとぼと、薄暗い商店街を抜け帰路に就く。
そういえば……しばらくカゴメに会っていない。
バックヤードの一件もあり、どんな顔をして会えばいいのか分からないのだ。ふたりはこちらに気づいていないようだったけれど、気まずいものは気まずい。
(あーあ。今度はいつ会えるかな。会いたいような、会わない方がいいような……)
きっと、会ったら好きな気持ちを再認識してしまう。
だったらこのまま、会わずに姿を消してしまいたい。
けじめをつけられないあたりが、まだ子供なんだなぁ、と思いながら重い足を進めていると……。
「やっと見つけたで~。なーつみくんっ」
あまり心地よくない声が、菜摘の心臓を跳ね上がらせた。
振り返ると、車のヘッドライトがこちらを向いていて。
逆光に照らされた杏莉が、仁王立ちしているのが見える。
なんですか、と問うより早く。
菜摘は背後から誰かに押さえつけられて……口も塞がれた。
あまりの手際の良さに、菜摘はなす術もなく。
「会いたかったでぇ。ほな、いこかー」
杏莉の掛け声によって、あっという間に車に押し込まれてしまったのだった……。
*
最初のコメントを投稿しよう!