3杯目

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3杯目

「菜摘、具合が悪いみたいなんです」  カゴメの元にそれを伝えに来たのは、菜摘の双子の弟:或斗だった。 菜摘も或斗も携帯電話をもっておらず、こうやって伝言を頼む以外連絡手段がない。 ここのところ店に顔を出さないので心配はしていたが……そうか体調不良だったのか。 「なっちゃん、どうしたんすか? 熱はある?」 「いや……それが、わからないんです」 「え?」  或斗の話を聞くと、数日前、かなり具合が悪そうに帰ってきた日があったそうだ。  時間もいつもより遅いし、心配してこちらが話しかけても無反応。  フラフラしながらやっとの思いでベッドに倒れこんで、それっきり部屋に引きこもってしまっているのだという。  どうやら日中、家に誰もいないときに風呂には入っているようだけど、どう考えても様子がおかしい。 「食欲もないみたいで…。カゴメさんなら何か知ってるかなって思ったんだけど……」  或斗の視線に、カゴメは首を振った。  なにかあったのだろうか。  過去に菜摘は、或斗と間違われて襲われたことがあった。  また同じような事があったのではないか、と不安が過る。 「或斗くん、明日お見舞いに行ってもいい?」 「いいですよ。菜摘も喜ぶと思う」  明日は丁度、バイトは休み。学校帰りに或斗と待ち合わせをして、菜摘のお見舞いに行くことになった。  なにか飲み物でも買っていってあげよう。  そんな事を考えながら、或斗に伝書鳩係になってくれたお礼を伝えた。  或斗は「今日はこれから美津也さんのとこに行くんです」と言い、ショップを後にした。  店先で或斗に手を振り、業務に戻ろうとすると……ふと背後に視線を感じる。振り返ると、店長の帆塚が煙草に火をつけながらこちらに近づいてきていた。 「あの子が菜摘くんの弟? そっくりだねー」  まあ、双子っすから。とカゴメが答えると、ふうーっと白煙を吐きつつ「そーいやさぁ」と菜摘のことを話し始めた。 「最近菜摘くん来ないじゃん。最後に見たのは『忘れ物したから帰る』っつって走って帰った時か」 「……忘れ物? それいつっスか?」 「あれ? カゴメに言ってなかったっけ?」  いつのことだっけか、と帆塚が考えるそぶりをしながら斜め上を見上げる。数秒もしないで、「あーそうそう、あの日だよ」と言いながら、煙草の先をカゴメへ向けてきた。 「カゴメが、杏莉に穴あけてやった日。ほら、アイブロウんとこにやってたろ?」  杏莉の目元に、ピアス穴をあけた日の事はよく覚えている。  「怖いんやもん」とか言いながら、やたら甘ったるい声を出していて……帆塚に聞こえるんじゃないかとヒヤヒヤしてたけど。 「カゴメ居るかって聞かれて、バックヤードに居るつったんだけどよ、中入らねーで帰っちゃったんだよな。」  まさか、菜摘が聞いていたなんて。  なんてタイミングが悪いんだろう……。  もしかして、それで勘違いをして元気がなくなってしまったのだろうか。  いやしかしアレは勘違いされても仕方がない。 「あー……そう、なんすね……」  杏莉は気づいていたのだろうか。  たまたま、だろうか……。  どちらにせよ、菜摘に謝りたい。  嫌な思いをさせてごめんね、と。
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