3杯目

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 翌日。  或斗と待ち合わせたカゴメは、三鳥家を訪れた。  菜摘や朝比の話で盛り上がれば、あっというまに目的地に到着。  住宅街の中の、きれいな一軒家だ。  2階にあがると部屋が3つあった。  両親の部屋と、菜摘と或斗の部屋である。 「菜摘ー、起きてる? 具合どう?」  ドア越しに或斗が声をかけるものの、返事がない。  寝ているのかも。そう呟きながら、或斗はドアノブを回した。 「なーつーみー」 「ちょっと!! 勝手に入らないで!」 「……起きてるじゃん」  キンキンとした声に、或斗がため息をつく。  部屋の中は、カーテンもしまっていて薄暗く、よく見えない。  カゴメは或斗の肩を叩いて、「オレがいくっす」とジェスチャーをした。わかった、と頷きながら或斗は戸から離れる。 「俺、リビングにいます。何かあったら呼んで下さい」  或斗が階段を下りて行ったのを確認して、カゴメは菜摘に声をかけた。 「なっちゃん」  びく、と震えたのは布団のかたまりだった。  どうやら、菜摘はその中にいるらしい。大きな饅頭のような布団の中から「かーくん……?」とこちらの呼びかけに答えてくれる。 「なんで、きたの……」 「なっちゃんに会いたくて。そっちに行ってもいいっすか?」  部屋のドアを閉めると、菜摘は手探りでリモコンを操作して照明をつけてくれた。オレンジ色の照明が、部屋の中を照らしていく。  問いには答えてくれなかったけれど、拒否されていないことに安心したカゴメは、ベッドの傍に座った。  初めて訪れた菜摘の部屋に好奇心もあり、さっと部屋を見渡してみる。片付けと掃除の行き届いた、きれいな部屋だ。  物が少なくシンプルで菜摘らしい部屋である。  気になったのは、ベッドの横にあるごみ箱だった。  赤い色が目に留まって、よく見るとどうやら血のついたティッシュが捨ててある。 「なっちゃん、ケガしてるんすか?」 「…………!」  菜摘は無言で、でも、布団のかたまりがもぞりと動いた。  否定しないということは、肯定なのだろう。 「見せて。結構血が出てるし、消毒しないと」 「やだ、見せたくない。嫌われる……」  見せたくないような傷……?  もしかして、自傷行為を……? 「嫌わない、大丈夫。なっちゃんが心配なんすよ。だから、見せてほしいっす」  もぞり、と布団が動いて……菜摘が顔を半分出した。「ほんとうに?」と不安そうにこちらを見上げる菜摘の、その頭をふわりと撫でる。  絶対に嫌いにならないよ。と伝えると菜摘は少し考えるような、思いつめたような表情をし、それから布団の中から体を起こして、ベッドの上に座った。  パジャマ姿の菜摘が可愛い、とか不謹慎なことを思ったのは内緒だ。  菜摘は「あのね、お願いがあるの」と言いながら、ひとつ、ひとつ、ボタンをはずしていく。  なんだろう、と思いながら菜摘の動作に釘付けになって……すべてのボタンがはずされて、前が開けられたとき、カゴメは言葉を失った。  菜摘の左胸。  ちょうど乳首のところに……シルバーがきらりと光りを放つ。 「これ、はずしてほしいの……」  それは、ニップルピアスだった。
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