283人が本棚に入れています
本棚に追加
翌日。
或斗と待ち合わせたカゴメは、三鳥家を訪れた。
菜摘や朝比の話で盛り上がれば、あっというまに目的地に到着。
住宅街の中の、きれいな一軒家だ。
2階にあがると部屋が3つあった。
両親の部屋と、菜摘と或斗の部屋である。
「菜摘ー、起きてる? 具合どう?」
ドア越しに或斗が声をかけるものの、返事がない。
寝ているのかも。そう呟きながら、或斗はドアノブを回した。
「なーつーみー」
「ちょっと!! 勝手に入らないで!」
「……起きてるじゃん」
キンキンとした声に、或斗がため息をつく。
部屋の中は、カーテンもしまっていて薄暗く、よく見えない。
カゴメは或斗の肩を叩いて、「オレがいくっす」とジェスチャーをした。わかった、と頷きながら或斗は戸から離れる。
「俺、リビングにいます。何かあったら呼んで下さい」
或斗が階段を下りて行ったのを確認して、カゴメは菜摘に声をかけた。
「なっちゃん」
びく、と震えたのは布団のかたまりだった。
どうやら、菜摘はその中にいるらしい。大きな饅頭のような布団の中から「かーくん……?」とこちらの呼びかけに答えてくれる。
「なんで、きたの……」
「なっちゃんに会いたくて。そっちに行ってもいいっすか?」
部屋のドアを閉めると、菜摘は手探りでリモコンを操作して照明をつけてくれた。オレンジ色の照明が、部屋の中を照らしていく。
問いには答えてくれなかったけれど、拒否されていないことに安心したカゴメは、ベッドの傍に座った。
初めて訪れた菜摘の部屋に好奇心もあり、さっと部屋を見渡してみる。片付けと掃除の行き届いた、きれいな部屋だ。
物が少なくシンプルで菜摘らしい部屋である。
気になったのは、ベッドの横にあるごみ箱だった。
赤い色が目に留まって、よく見るとどうやら血のついたティッシュが捨ててある。
「なっちゃん、ケガしてるんすか?」
「…………!」
菜摘は無言で、でも、布団のかたまりがもぞりと動いた。
否定しないということは、肯定なのだろう。
「見せて。結構血が出てるし、消毒しないと」
「やだ、見せたくない。嫌われる……」
見せたくないような傷……?
もしかして、自傷行為を……?
「嫌わない、大丈夫。なっちゃんが心配なんすよ。だから、見せてほしいっす」
もぞり、と布団が動いて……菜摘が顔を半分出した。「ほんとうに?」と不安そうにこちらを見上げる菜摘の、その頭をふわりと撫でる。
絶対に嫌いにならないよ。と伝えると菜摘は少し考えるような、思いつめたような表情をし、それから布団の中から体を起こして、ベッドの上に座った。
パジャマ姿の菜摘が可愛い、とか不謹慎なことを思ったのは内緒だ。
菜摘は「あのね、お願いがあるの」と言いながら、ひとつ、ひとつ、ボタンをはずしていく。
なんだろう、と思いながら菜摘の動作に釘付けになって……すべてのボタンがはずされて、前が開けられたとき、カゴメは言葉を失った。
菜摘の左胸。
ちょうど乳首のところに……シルバーがきらりと光りを放つ。
「これ、はずしてほしいの……」
それは、ニップルピアスだった。
最初のコメントを投稿しよう!