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否定するときは首を横に振るし、否定できないときは「んー…」と中途半端な反応をするので、逆にわかりやすい。
話をしていくうちに、菜摘は「実は……」と数日前に起こったことを話しはじめた。
「車に乗せられて、Barみたいなところに連れていかれたの。そこで、よくわからない注射を打たれて……それから、記憶ない」
その日は、どうやって帰宅したのかも覚えてないという。
翌日になって、ようやく意識がはっきりしてきた菜摘は、痛みを感じ左胸を確認すると……そこにはピアスがついていたそうだ。
ショックと恐怖と不安が同時に襲ってくる。
ピアスは取れないし、血が出て痛むので、一生このままなのだと落ち込んでしまったそうだ。
「なんで或斗くんやオレに相談してくれなかったんすか」
「だって乳首にピアスあけてるとか軽蔑される! それに…薬のことだって、学校にバレたら退学になっちゃうもん……」
菜摘は再び目を潤ませた。
カゴメはもう一度、震える身体を抱きしめてやる。守ってあげられなくてごめん。そう耳元で呟きながらぎゅうっと力をこめると、菜摘はカゴメの背に腕を回してそれに応えてくれた。
こんな小さな身体で、こんな大きな苦しみを抱えていたなんて。
「オレ、なっちゃんに謝りたいことがあるっす」
カゴメの言葉に、菜摘は抱きしめられたまま首をかしげた。
そのまま、あの日……杏莉にピアスを開けてあげた話と、嫌な思いをさせてしまった事を謝罪する。
「きっと、勘違いさせちゃったなと思って。杏莉ちゃんとは何もしてないっすよ」
「そうなんだ……たしかに、目元にピアスついてたね」
体を離すと、菜摘の安堵したような表情がそこにはあった。誤解が解けたようでよかった……でも。
いつ、杏莉の目元のピアスをみたのだろうか。
確か帆塚の話では、あの日以来、店には顔を出していないはずだ。
数日前から引きこもっている菜摘と杏莉が、この短い期間で接触するとしたら……。
「それで、なっちゃんにこんな酷いことをしたのは、誰?」
もう、大体予想はついている。
だけど確信が欲しくて、カゴメは菜摘に問いただした。
菜摘に薬を打ったり、無理矢理ピアスをあけるなんて……きっと他にも酷い事をされたのだろう。
それに菜摘は人から恨みを買うような子じゃない。
だけど菜摘は、カゴメのその問いに答えを出さなかった。
きっとあの子に脅されているに違いない。
菜摘の口はキツく噤まれたまま、視線を逸らし…ベッドのシーツをぎゅうっと握りしめていたのだった……。
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