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そんな光景をみた杏莉は、『菜摘がDomである』という事実を目の当たりにして驚いていた。
後に聞いた話だが、杏莉はノーマルで、グレアの影響は受けないそうだ。
「うっそー、ほんまにグレア放ったん?」
「ご、ごめんなさい、わざとじゃ……」
早くグレアを止めなきゃ。と菜摘が深呼吸をする。
カゴメも杏莉に「まだコントロールが出来てないんすよ」と言い訳をしてくれていた。
「んーと? つまり、この子にグレアのコントロールを教えとる、てこと?」
どうしても、菜摘とカゴメの関係が気になるらしい。
そんな杏莉の問いに、「いや、」とカゴメが否定した。
「この子は、俺のパートナーっす」
数秒の間があいて、「えーーー!?」と大げさに驚いたような杏莉の声が店内に響いた。
店の外を歩く人もこちらを振り返る程の大声に、菜摘の身体がびっくりして跳ねあがる。
同時に、目を覆っていたカゴメの手が離れて、菜摘の視界を明るくした。
もう、グレアは止まったかな……。
そうビクビクしながら杏莉を見上げると、透き通った若葉色の瞳が目の前に迫っていて、大きく見開かれたまま菜摘を覗き込んでいた。
「嘘やん…、ガチ? こんな子供が? しかもDomって……カゴメくんSwitchやろ?」
本気で驚いたらしい杏莉のリアクションに、カゴメは「まあね」と返す。
Switchは両性。支配欲と従属欲を併せ持った性である。
ふたつの性を自分で切り替える事ができるSwitchは、圧倒的にDomを装う人が多い。
Subに成り下がるような事を好むSwitchは稀なのだ。
「この子と居る時限定でSubなんすよー。可愛いっしょ、俺の主人は」
カゴメはでれでれと頬を緩ませながら、菜摘の頭をわしわしと撫でまわす。『可愛い』とカゴメに言ってもらえたことが少し恥ずかしくて、菜摘は頬を赤く染めた。
杏莉を驚かせてしまったみたいだけど、パートナーとして紹介されるのは嬉しい。
でもなんだか視線が気になって、杏莉を見上げると……バッチリと視線がぶつかる。
その瞬間、菜摘はゾッと背筋を震わせた。
「そうなんやぁ」と呟く杏莉の、その瞳が……全く笑っていない。冷たい視線にビクッと小さく身体を揺らすと、カゴメに顔を覗き込まれた。
「どうかした?」
ハッとしてカゴメを見上げて、それからもう一度杏莉へと視線を移す。
だけど、すでに杏莉の表情は明るい笑みに変わっていた。
……見間違い、だろうか?
菜摘は「な、なんでもない」と素っ気なく答えて、それからカゴメの服の裾をぎゅうっと握りしめた。
「緊張してるみたい。ごめんね、杏莉ちゃん」
そんな菜摘をカゴメがフォローをしてくれて、杏莉が「ほんまやねぇ」とおかしそうに笑った。
それから、カゴメの陰に隠れた菜摘へと手を差し出す。
「ま、仲良ぅしてやー」
無理矢理、シャツの袖を握っていた菜摘の手を上から握ってきて。
隙間に手を滑り込ませ、握手を強いられたのだった。
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