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教師は「何があった!?」と慌てて駆け寄ってきた。
よかった、教師が来たならもう安心。
菜摘は事情を話そうと、教師に近寄ろうとした。
……しかし。
「ぅええん、せんせぇ、たすけてぇ!」
「あの男の子が! 急に綾乃にグレアを放ってきたんですぅ!」
綾乃と呼ばれたツインテールの女子生徒が、泣き出して。
金髪の女子生徒が、菜摘を指差した。
甘ったれた声で泣きすがる綾乃に、男性教師が寄り添うように背をさする。
「古賀はSubだったな。大丈夫か?」
「こわかったよぉ、綾乃なにもしてないのにぃ……ぐすん」
綾乃の甘ったれた泣き方に、菜摘は混乱した。
さっきまでこちらに暴言を吐いてたのが、まるで嘘のようだ。「ぐすん」という効果音を声に出すあたり、彼女のあざとさがうかがえる。
そして、綾乃の言葉を聞くや否や、教師は菜摘を怖い表情で睨みつけ叱責した。
「だめじゃないか、急にグレアを放つなんて」
「で、でも、僕はなにも……」
「弱い者を支配しようとするな! 言い訳は聞かない!!」
教師の怒鳴り声は、菜摘の恐怖心をさらに煽った。ビクッと身体が震えて、視線が教師から離れなくなっていく。
菜摘がDomである時点で、教師はSubの…つまり綾乃達の味方だ。
ふたりは、まだきゃあきゃあと泣き喚いており、そのうち「謝りなさいよ!」と謝罪を求めはじめる。
「綾乃に、謝って!」
教師の前でそう求められてしまい、どう状況を考えても菜摘が謝るしかなくて。震える唇を懸命に動かし「ごめんなさい」と呟いた。
「君は生徒会の役員だろう? 今回は見逃してやるが、次はないと思いなさい」
教師はため息交じりにそう言う。
その後ろからは、まだ「ぐすん、ぐすん」とすすり泣く声が聞こえてくる。よく見ると…泣き続ける綾乃の、その口元が吊り上がっていた。
金髪の女子生徒も、くすくすと口元を歪めている。
(はめられた…!!)
すべて彼女たちの計画だったのだ、と菜摘は悟った。
それから、教師は女子生徒に「保健室へ行こう」と声をかけた。
大丈夫? と寄り添い支えられながら歩く綾乃を、菜摘は苦しい表情で見つめる。
……たしかに、グレアが溢れてしまったのは自分が悪いけれども。
でも、そんなに強いグレアではなかったはずなのに。
(はめられたんだ、なんて言っても……あの先生は聞いてくれないだろうなぁ)
そう思っていると、菜摘の視線に気づいたのか、男性教師が菜摘を振り返った。びくり、と身体を揺らして、慌てて視線を逸らすと……離れていても聞こえるほどの大きなため息を吐いてくる。
「君みたいなDomなんかに、従いたいSubはいないだろうね」
教師の心ない言葉が、ぐさりと刺さっていく。
そんなこと、分かっていたけれど……。
3人の姿が見えなくなった後も、ひとりそこで立ち尽くしながら、脳内でリピートする教師の言葉に、傷がより深くなっていったのだった。
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