2杯目

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 教師は「何があった!?」と慌てて駆け寄ってきた。  よかった、教師が来たならもう安心。  菜摘は事情を話そうと、教師に近寄ろうとした。  ……しかし。 「ぅええん、せんせぇ、たすけてぇ!」 「あの男の子が! 急に綾乃にグレアを放ってきたんですぅ!」  綾乃と呼ばれたツインテールの女子生徒が、泣き出して。  金髪の女子生徒が、菜摘を指差した。  甘ったれた声で泣きすがる綾乃に、男性教師が寄り添うように背をさする。 「古賀はSubだったな。大丈夫か?」 「こわかったよぉ、綾乃なにもしてないのにぃ……ぐすん」  綾乃の甘ったれた泣き方に、菜摘は混乱した。  さっきまでこちらに暴言を吐いてたのが、まるで嘘のようだ。「ぐすん」という効果音を声に出すあたり、彼女のあざとさがうかがえる。  そして、綾乃の言葉を聞くや否や、教師は菜摘を怖い表情で睨みつけ叱責した。 「だめじゃないか、急にグレアを放つなんて」 「で、でも、僕はなにも……」 「弱い者を支配しようとするな! 言い訳は聞かない!!」  教師の怒鳴り声は、菜摘の恐怖心をさらに煽った。ビクッと身体が震えて、視線が教師から離れなくなっていく。  菜摘がDomである時点で、教師はSubの…つまり綾乃達の味方だ。  ふたりは、まだきゃあきゃあと泣き喚いており、そのうち「謝りなさいよ!」と謝罪を求めはじめる。 「綾乃に、謝って!」  教師の前でそう求められてしまい、どう状況を考えても菜摘が謝るしかなくて。震える唇を懸命に動かし「ごめんなさい」と呟いた。 「君は生徒会の役員だろう? 今回は見逃してやるが、次はないと思いなさい」  教師はため息交じりにそう言う。  その後ろからは、まだ「ぐすん、ぐすん」とすすり泣く声が聞こえてくる。よく見ると…泣き続ける綾乃の、その口元が吊り上がっていた。  金髪の女子生徒も、くすくすと口元を歪めている。 (はめられた…!!)  すべて彼女たちの計画だったのだ、と菜摘は悟った。  それから、教師は女子生徒に「保健室へ行こう」と声をかけた。  大丈夫? と寄り添い支えられながら歩く綾乃を、菜摘は苦しい表情で見つめる。  ……たしかに、グレアが溢れてしまったのは自分が悪いけれども。  でも、そんなに強いグレアではなかったはずなのに。 (はめられたんだ、なんて言っても……あの先生は聞いてくれないだろうなぁ)  そう思っていると、菜摘の視線に気づいたのか、男性教師が菜摘を振り返った。びくり、と身体を揺らして、慌てて視線を逸らすと……離れていても聞こえるほどの大きなため息を吐いてくる。 「君みたいなDomなんかに、従いたいSubはいないだろうね」  教師の心ない言葉が、ぐさりと刺さっていく。  そんなこと、分かっていたけれど……。  3人の姿が見えなくなった後も、ひとりそこで立ち尽くしながら、脳内でリピートする教師の言葉に、傷がより深くなっていったのだった。
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