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お使いを頼まれ、櫻木オーナー代理のところに行って、カフェへと戻ってきた円花は、おかしな光景を見た。
開店しているので、すでに何人かお客が入っているのだが、カウンター席の端っこに知っている顔があった。
「朝メシください」
ふざけているのか本気なのか、いまいちわからない言動をするその青年の名は、七々貴という。
風雅をからかいによくやってくる、気まぐれで自由人なカフェの常連客である。
それはいいとして、問題はその七々貴の隣に座っている風雅だ。
風雅は確か、今日シフトには入っていないからオフのはずだが、何故か、私服でふてくされた表情でカウンター席に座っている。
眉をひそめた円花は、カウンターの内側から風雅に声をかける。
「風雅。おまえ、なにやってんだよ」
「俺、今客だから」
「は?」
むくれた表情で短く告げた風雅に、円花は目を丸くした。
「そう、こいつ今客だから」
隣に座る七々貴も同調するように言い、円花はわけがわからない。
「……ふざけてるのか? 店で遊ぶなって月白に怒られるぞ」
「知らない。俺そんなヤツ知らないし」
月白、という名前を聞いた途端、風雅がカウンターに突っ伏した。
何がどうなってんだと、円花は事情を知っていそうな七々貴を見たが、七々貴はへらりと笑って何も言わない。
向こうに聞いたほうが早そうだと、円花は一旦店の奥へと戻った。
***
円花が厨房を覗くと、月白と東雲が作業をしていた。
月白は、何か様々な粉末が入った複数の小皿を前に、思案気な顔をしている。
中に入ると邪魔になりかねないので、円花は入り口から声をかけた。
「月白、風雅となんかあった?」
「何もありません」
こちらを見もせずに即答である。
「いや、でも風雅が……」
「風雅なんて人知りません」
おまえもか、と円花は内心で叫んだ。
二人そろって、何かありました怒ってます、と言っているようなものだ。
チラリと東雲に視線をやると、小さく首を横に振られた。
ならば、唯一知っていそうなのは、と円花は休憩室へ足を向ける。
そこで予想通り、のんきにジュースを飲んでいる羽鳥を発見した。
「羽鳥! なあ、風雅と月白どうしたんだ?」
「マリッジブルーってやつだな」
「……ふざけてないで、真面目に答えろ」
冗談の通じないヤツだな、と羽鳥は肩をすくめ、パックジュースを啜りながら淡々と答える。
「詳しくは知らないが、風雅が軽食メニューにカレーを入れろ、ってしつこく言い続けて月白がキレたらしい。ちなみに、昨日の夜からだそうだ」
「うっわ……風雅の馬鹿。なにやってんだよ……月白が本気でキレたら、やばいからな」
円花の言葉に同意するように羽鳥も頷く。
「あれは、しばらく続くぞ」
「だろうな。そんな感じがした。……で、ふてくされた風雅は、七々貴と遊んでるのか?」
「まぁ、だいたいそんなところだ」
さてこの状況をどうしたものかな、と円花と羽鳥は互いを見やった。
***
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