3.衝撃の事実

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 駐車場の車へ戻ると、アイスを舐めながら浅井先輩が、「じゃあ直緒は俺と一緒に後部座席な」と言い出す。 「ちょっと待ってください! 俺も直緒先輩と後部座席がいいです!」 「僕は……三沢君が隣でも構わないよ?」  そう言う倉下さんが妙な笑顔を三沢君に向けるので、私は「このまま助手席座りますね」と宣言した。 「そ、そんなぁ……」 「じゃあローテでいこう」 「僕はずっと同じでもいいんだけどなぁ……」 「ふざけんなッ!」  話は一向にまとまらなかったが、私が「時間が勿体ない!」とキレ気味に言うと皆渋々従い、座席は最初に乗り込んだ時と変らぬまま発車するのだった。 * * *  乗車して三時間程が経過した頃、いよいよ静岡県内に突入した。前世で言うところの『今川領内』である。富士山が眼前に見えてくると、あまりの迫力に車内のテンションは否が応にも上がった。 「ところで倉下って歴史強いの?」  唐突に先輩が言い出して、私はまた「何でさん付けできないかな……」と思いながら額を抑えた。 「強くはないけど……普通かな?」 「じゃあ俺達の前世の時代背景とかわかっちゃいます?」 「あぁ、うん。それはちょっと気になって調べたかな……」 (調べた?) 「教科書に+αくらいの知識だけど。例えば戦国時代ってどう始まったのかな~とか?」 「どう始まったんスか?」 「その前に『○○時代』っていうのがどうやって区分されてるかはわかる?」  斜め後ろに座る三沢君と視線を合わせ、一緒に首を捻る。すると代わりに先輩が口を開いた。 「その時代を治めるトップの違い?」 「大体そんな感じかな。例えば、平安時代は天皇がトップで貴族が治めていたよね。鎌倉時代は貴族から武士に変わり、政治のトップは天皇から将軍に変わって、鎌倉幕府と朝廷の治める地域があったと言われている。室町時代になると武士の力が全国に及び、将軍をトップとした室町幕府が治める時代になる」  そこまで一気に倉下さんが喋ったので、先輩は「へぇ~」と感心しながら称賛の拍手をした。 「凄いな智ちゃん! うちの岡部よりわかりやすい。見直したぜ!」 「あ、岡部先生っていうのはうちの学校の日本史の教師なんです。私もそう思いましたよ」 「そ、そうですかね……。凄く大雑把な把握ですけども……ハハハ……」 「訊いた本人の三沢が寝ちゃってるけど、気にせず続けてくれ智ちゃん」 「え……」  後部座席を振り返ると、確かに三沢君はもう瞼を閉じてスヤスヤと寝息を立てていた。どうやら三沢君には子守歌だったらしい。自分も人のことを言える立場ではないが、彼の日本史の成績を少し心配してしまう。
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