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新東名高速道路の浜北ICで高速を降りた倉下さんの車は、時刻がお昼時という事もあって、近くの適当なファミレスへと入って行った。
この浜北ICの近くには上地谷を形成したニ級河川の天涼川が流れており、上流を目指せばもうすぐ上地谷だ。私達は食事をとりながら、これからの動きについて話し合った。
日帰りするためには、あと四時間ほどしか自由な時間はない。ここから上地谷への往復移動時間を考えると、上地谷での滞在時間は約三時間というところだろう。やはり地元の郷土博物館に的を絞るべきだと、話はすぐにまとまった。
スマホで詳しい場所を調べ、カーナビで案内して貰いながら、私たち一行は上地谷に唯一ある小さな『上地郷土博物館』へと辿り着いた。
「名前からして何か見つかりそうッスね」
「だといいけどな」
そこは二階建ての公民館のような建物で、地元の人達も好き好んでは来ないような、少し寂れた印象のある博物館だった。各々入場料を払い、少し埃臭い博物館へと足を踏み入れる。土曜日なのにお客は私達の他に、一人か二人くらいしかいないようだ。
この上地郷土博物館も他の博物館の例に漏れなく、この土地のいろんな時代の資料が展示されていた。私達が見たいものは主に戦国時代の資料だが、展示されているのはありとあらゆる時代のものなので、最古のものであれば出土した弥生時代の土器が、最近のものであれば太平洋戦争の傷跡を記録した空襲後の航空写真などが飾られている。
小中学生の頃に社会科見学の一貫で地元の郷土博物館を訪れたが、常設展示はどこも似たようなものだ。あとはこの土地がどのように長い年月をかけて形成されてきたのか、どのように経済発展してきたのか。または、この土地に古くから住んでいる人達の、家の納屋に眠っていたような物を集めて展示しているか、だ。
順路通りに博物館を巡り、特に収穫無しかと諦めかけていた矢先、入口で貰ったパンフレットを眺めていた三沢君が唐突に口を開いた。
「今二階で『企画展』やってるって書いてありますよ。手紙? みたいなのがパンフに載ってます」
手に持っていたパンフレットを改めて開くと、そこには確かに古そうな文字が並んでいる手紙の写真が載っていた。
「これ……私、見たことあるかも……」
「え!?」
「この左下のところ、花押がありますね」
「かおう?」と三沢君が反復すると、「サインみたいなものだよ。武将が自分の書状の証として最後に書くんだ」と倉下さんが説明する。「しかもこれ、今川義元の花押だ」と、付け加えて。
それを聞いた浅井先輩はすかさず「二階の企画展見に行こうぜ」と言い、颯爽と階段を駆け上がった。三沢君もその後に続き、私も後を追おうとしたが、倉下さんが一向に動こうとしないのを不思議に思った。
「倉下さん?」
「……」
「行かないんですか? 倉下さん」
「え? あ、うん。僕も行きま……行くよ。直緒さん……先に行ってて」
手にしたパンフレットを見ながら立ち止まってしまった倉下さんを怪訝に思いながらも、私は二階へ続く階段を上りはじめた。
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