1.直緒の企み

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 約束の午後ニ時。五分前にコンビニへ到着すると、倉下さんはもう雑誌コーナーで漫画を読んで待っていた。 「こんにちは、倉下さん。お待たせしましたか?」 「い、いえ! 全然!!」  何故か倉下さんは慌てたように漫画雑誌をラックに戻して、私をぼーっと見つめている。もしかしてエッチな漫画でも読んでいたのかと思いつつも、「どうかしました?」と訊ねると、 「この前会った時と雰囲気が違ったからその……驚いちゃって」 と、意外な回答が返ってきた。 (私!?)  咄嗟に先日の自分がどんな格好だったのかを思い出す。あの時は学校から帰ってきたばかりで、ジャケットとネクタイを外し、スカートを脱いでリラックスできるジャージのパンツに履き替え、少しダボついたニットのパーカーを羽織って、アイスを買いにこのコンビニへ出かけたのだった。 (凄くどうでもいい服!!!)  今日は外出用のちゃんとした恰好をしている。気張っているつもりはないけれど、下はお気に入りのスカートを履いていた。 「か、可愛いなって思って……」  既に社会に出て働いているような人が、真っ赤な顔で俯きながらそんな事を言うので、前に会った時の恰好がよっぽど酷く見えたのだろうと、何だかいたたまれない気持ちになった。 「お、お店! 早く行きましょう!!」 「は、はい!!」  そう返事をした瞬間に一度背筋をピンと伸ばしてから、倉下さんは外へと歩き出した。 (もしかして、緊張……してる?)  彼の背中が少し強張っているように見える。先日会った時は仕事中だったせいか背広姿で随分大人に見えたけれど、私服の倉下さんは幾分年齢が近くなったように感じた。  上は黒のTシャツにチェック柄のYシャツを羽織り、下はジーンズと大分カジュアルだからだろうか。それとも、この倉下さんの謎の緊張感のせいだろうか……。  コンビニを出たところで目の前を歩いていたはずの倉下さんの姿が急に見えなくり、ハッとして横を向くと、自動ドアの脇で片膝を付いていた。まるで私がコンビニから出るのを待っていたかのようだ。 「あの……何してるんですか?」 「へ? あっ!! あれ!?」  倉下さんは自分でも自分の行動に驚いているのか、あたふたしている。 (この人、大丈夫かな?)  さっきから倉下さんの態度はどこかおかしい。でも何故か、この一連の動作には既視感があるような気がしてならなかった。  気を取り直して駐車場に停めていた車まで辿り着くと、倉下さんはわざわざ助手席のドアを開けて「どうぞ」と私に乗車を促した。車はごく一般的なシルバー色の軽自動車だ。あまり色形には拘っていない、機能性重視といったところだ。  シートベルトをすると、不意に運転席の倉下さんと目が合った。乗車時に、あんなレディファースト扱いをされたことも無ければ、家族以外の運転する車の助手席に座ったことも無い。  今頃になって徐々に、緊張感と気恥ずかしさが込み上げて来た。それは私だけでなく倉下さんも同じだったようで、これ見よがしに大きな深呼吸をひとつすると、「じゃあ、お店向かいますね」と言って、車は滑り出すように駐車場を後にした。
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