1.直緒の企み

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 店の奥のボックス席に、私たちは向かい合わせで着席した。ファミレスと喫茶店の中間のようなこの店には、今現在五割くらいの席が埋っている。それほど有名な店ではないのか、穴場というのは本当らしい。 「それにしても、また僕と会ってくれてありがとう。あんなとこ見られたら、もう会ってくれないかもと思ってたんだけど」  頭を掻きながら倉下さんは苦笑していた。あんなとこというのは、初めて会った時の号泣を指しているのだろう。 「そんなこと……」 「いやぁ、嬉しいなぁ。まさかこの歳で女子高生と二人きりでこういうお店に来れるとは、思って無かったからなぁ~」  ニヤけた顔で急にそんな事を言い出したので、号泣をフォローしようとしていた私の心は霧散した。 「あの……実は今日、大事な話があって……倉下さんに是非会わせたい人がいるんです」 「大事な話? 会わせたい人?」  彼の頭にあからさまな疑問符が見えたところで、急に店の出入り口付近が騒がしくなった。「何でお前が居るんだよ!」とか「それはこっちのセリフっす」という言い争いが、私達の席へ向かって段々大きく聞こえてくる。 「直緒!?」 「直緒先輩!?」  私達の席まで辿り着いた喧噪が、同時に素っ頓狂な声で私を呼んだ。「え? 何? どういうこと?」と、戸惑い気味の倉下さんは、二人の男子高生を交互に見比べている。 「倉下さん、そちらが同じ学校で一コ上の浅井(あさい)響介(きょうすけ)先輩で、こちらが私の所属するテニス部後輩の三沢(みさわ)徹哉(てつや)君です」 「はぁ、どうも。僕は倉下(くらした)智実(ともみ)と言います……」  状況を飲み込めないながらも、大人だからだろうか、倉下さんは何となくその場の空気を読んで名乗る。一方、飲み込めずに苛ついた浅井先輩は、腕を組みながら口火を切った。 「何でお前直緒と一緒に居んだよ! 歳いくつだ!?」 「ちょっと先輩!」 「ええと……24です」 「ちっ!!」 「自分から聞いておいてその態度凄いッスね」  先輩の悪態に苦笑する三沢君。そんな三沢君を、倉下さんは何故かじーっと見つめていた。 (この感じ……)  既視感と同時に、何か嫌な予感がした。 「で、何だよこの状況は」 「倉下さんに会わせたかったのはこの二人で、今日は倉下さんだけじゃなく、二人にも大事な話があってここに呼びました」  三沢君が「大事な話?」と聞き返し、先輩や倉下さんを交互に見る。先輩や倉下さんも全く同じ反応をしていた。 「浅井先輩は既に知ってますが、私の前世は『上地尚親』なんです」  「え!?」と同時に驚いたのは倉下さんと三沢君。その驚嘆を聞いて更に驚いたのが浅井先輩だった。 「ってことはまさかここに集まってるこの二人って……」 「そうなんです、先輩。この二人も前世の関係者なんです」  私以外の全員が、目を皿のようにしてその場に固まってしまった。
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