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店の奥のボックス席に、私たちは向かい合わせで着席した。ファミレスと喫茶店の中間のようなこの店には、今現在五割くらいの席が埋っている。それほど有名な店ではないのか、穴場というのは本当らしい。
「それにしても、また僕と会ってくれてありがとう。あんなとこ見られたら、もう会ってくれないかもと思ってたんだけど」
頭を掻きながら倉下さんは苦笑していた。あんなとこというのは、初めて会った時の号泣を指しているのだろう。
「そんなこと……」
「いやぁ、嬉しいなぁ。まさかこの歳で女子高生と二人きりでこういうお店に来れるとは、思って無かったからなぁ~」
ニヤけた顔で急にそんな事を言い出したので、号泣をフォローしようとしていた私の心は霧散した。
「あの……実は今日、大事な話があって……倉下さんに是非会わせたい人がいるんです」
「大事な話? 会わせたい人?」
彼の頭にあからさまな疑問符が見えたところで、急に店の出入り口付近が騒がしくなった。「何でお前が居るんだよ!」とか「それはこっちのセリフっす」という言い争いが、私達の席へ向かって段々大きく聞こえてくる。
「直緒!?」
「直緒先輩!?」
私達の席まで辿り着いた喧噪が、同時に素っ頓狂な声で私を呼んだ。「え? 何? どういうこと?」と、戸惑い気味の倉下さんは、二人の男子高生を交互に見比べている。
「倉下さん、そちらが同じ学校で一コ上の浅井響介先輩で、こちらが私の所属するテニス部後輩の三沢徹哉君です」
「はぁ、どうも。僕は倉下智実と言います……」
状況を飲み込めないながらも、大人だからだろうか、倉下さんは何となくその場の空気を読んで名乗る。一方、飲み込めずに苛ついた浅井先輩は、腕を組みながら口火を切った。
「何でお前直緒と一緒に居んだよ! 歳いくつだ!?」
「ちょっと先輩!」
「ええと……24です」
「ちっ!!」
「自分から聞いておいてその態度凄いッスね」
先輩の悪態に苦笑する三沢君。そんな三沢君を、倉下さんは何故かじーっと見つめていた。
(この感じ……)
既視感と同時に、何か嫌な予感がした。
「で、何だよこの状況は」
「倉下さんに会わせたかったのはこの二人で、今日は倉下さんだけじゃなく、二人にも大事な話があってここに呼びました」
三沢君が「大事な話?」と聞き返し、先輩や倉下さんを交互に見る。先輩や倉下さんも全く同じ反応をしていた。
「浅井先輩は既に知ってますが、私の前世は『上地尚親』なんです」
「え!?」と同時に驚いたのは倉下さんと三沢君。その驚嘆を聞いて更に驚いたのが浅井先輩だった。
「ってことはまさかここに集まってるこの二人って……」
「そうなんです、先輩。この二人も前世の関係者なんです」
私以外の全員が、目を皿のようにしてその場に固まってしまった。
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