1.直緒の企み

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(まぁ、そうなるよね…)  半ば予想出来ていた反応だった。何を隠そう、私自身が立て続けにこの三人と出会って、同じような衝撃を受けたのだから。しかし、そこは一番早く状況を飲み込めてしまうのが、浅井先輩だった。 「とりあえず俺、直緒の横に座るな」 「あ!! 先輩ズルいッスよ!!!」 「三沢君……でしたっけ? とりあえず、僕の隣に座ります?」 「……」  全員が席に着席したところで、店員が注文を取りに来た。私が紅茶とパンケーキを頼むと、それを見て「何だ美味そうだな」と言った浅井先輩はチョコレートパフェを頼み、それを呆れて見ていた三沢君と倉下さんは、コーヒーを一杯ずつ注文する。  何だか妙な事になったなと言わんばかりの顔をした倉下さんは、おずおずと口を開いた。 「浅井君、でしたっけ? 彼は井上さんの前世を既に知っていたみたいな言い方だったけど……」 「あぁ。俺と直緒は図書室で上地尚親を調べてたんだ。偶然、別々に。そこで直緒とは知り合った。ちなみに俺の前世は、尚親の正室の『淡雪(あわゆき)』だ」 「「え!?」」  三沢君と倉下さんの驚愕がハモる。 「そ、そうか。井上さんだって前世は尚親様で、今は女性なんだから……現世で性別が変わっててもおかしくは無いんだよね……」 「あ、そういう意味で言ったら俺もッス。俺の前世は、尚親の側室の『桔梗(ききょう)(かた)』だと思います」  その瞬間、倉下さんは勢いよく立ち上がり、思わず「え!?!?」と発した声は店内に轟き渡った。何人かの客が、迷惑そうに倉下さんを振り返る。 「うるせーよ、そんなに驚くことか?」 「ご、ゴメンなさい。いやでも……だって……」  口を覆いながら、隣に座る背の高い三沢君をじっと見ている。 (今凄く、残念な気持ちになってる気がするな……倉下さん)  何故か彼の気持ちが手に取るようにわかったけれど、何故そう思うのかは具体的によくわかっていなかった。これもきっと先程の既視感と同じで、前世の記憶からくる勘のようなものなのだろう。 「で、倉下さん……でしたっけ? 倉下さんは一体、前世誰なんスか?」 「ぼ、僕は……尚親様の側近の『加野(かの)通孝(みちたか)』です」 「はっ!?」 「えっ!?」  二人は同時に驚いたけれど、やっぱり先に事実を飲み下すのは先輩の方だった。 「あ、だからさっき性別がどうのって言ったんだな、お前」 「そうか……倉下さんだけ前世と性別が変わって無いッスね」  あっさり三沢君にそう言われて、倉下さんは涙目になる。 「さっきからアイツ、何か気持ち悪くない?」 「ちょっと先輩! 仮にも年上の方なんですから……」 「あ、その……実は桔梗の方と僕の前世の通孝は……元々従兄妹(いとこ)同士の関係で、桔梗が尚親様の側室に入る時には、義理の兄妹だったんです。通孝は昔から、桔梗を実の妹のように可愛いがっていて…………可愛い妹がぁぁああ!!」  ついに倉下さんはその場に突っ伏し、情けない声をあげながら泣き出してしまった。それを見た三沢君は勿論ドン引いている。そんな状況にやれやれと、私を含めた他三人は額を抑えるしかなかった。
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