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店員が注文した品を運び、それぞれの前に置いた頃、ぐずっていた倉下さんがようやく落ち着きを取り戻した。
「それじゃあ何故私が二人を呼んだのか説明を……」
「いや、それは俺がする。その方がいいだろ?」
隣に座る浅井先輩が私の言葉を遮った。さすがの鋭さだなと思いながらも、私は先輩に「どうぞ」と説明の機会を譲る。
「直緒の前世が尚親だと知った時、俺は『尚親の死の真相を知りたい』って言ったんだ」
「「死の真相?」」
「あぁ。尚親は今川家からの命令で、若くして切腹させられてる。でもあれは、あまりにも急だった。何か裏があるはずだ。俺はそれが知りたい」
倉下さんも三沢君も、先輩の発言に暫く言葉を失ってしまった。
「難しくないッスか? それ。桔梗は側室だったし……それに俺、そんなに前世の夢見て無いしなぁ……」
「しかし何でまた淡雪の君がそんな事を?」
「俺の前世の淡雪は、尚親の死の直前に上地谷を追い出され、自分の息子と離れ離れにされて凄く未練が残ってるんだ。それでいつも俺は夢を見る度、淡雪の執念に苛まれてる。淡雪を説得するなんて無理な話だが、何度も淡雪の訴えを聞いているうちに、俺自身も『何故尚親が死ななきゃならなくなったのか』が疑問に思えた」
「……」
倉下さんは顎を摩りながら、窓の外をじっと眺めている。何か思い出せそうな事でもあるのだろうか。
「このままわけもわからず夢に苦しめられるのも癪だから、直緒に協力してもらってるんだ。な?」
「え……ええ、まぁ」
協力……というより強制……という感じがしたけれど、今は言わないでおく。
「で、俺が知らないうちに直緒はお前らと出会ってたんだな。それで、こいつらにも協力して貰えば、早く真相がわかると思って俺らを集めた……そんなとこだろ?」
「お前らとかこいつらとか……本当酷いッスね」
「概ね先輩の言った通りです。驚かせてごめんなさい」
私が頭を伏せて謝ると、向かい側の倉下さんと三沢君は、「いやいや! 謝らないでください」と慌てた。
「驚きはしましたけど、僕なんかを頼ってくれたのは嬉しいですし」
「そ、そうですよ先輩! 俺も協力できるのが嬉しいです!!」
「ゲンキンだな、お前ら……」
「ありがとうございます。そう言ってくれて、私もホッとした」
安堵から微笑むと、それを見た倉下さんも三沢君も、ニッコリと笑顔を返してくれた。浅井先輩だけがそれを見て「けっ!」と悪態をついている。
「安心したらお手洗いへ行きたくなっちゃった……。ちょっと席外しますね」
そう言って私はテーブルを離れた。残された三人だけのテーブルが、途端に険悪なムードに包まれるとも知らずに……。
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