1.直緒の企み

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 店員が注文した品を運び、それぞれの前に置いた頃、ぐずっていた倉下さんがようやく落ち着きを取り戻した。 「それじゃあ何故私が二人を呼んだのか説明を……」 「いや、それは俺がする。その方がいいだろ?」  隣に座る浅井先輩が私の言葉を遮った。さすがの鋭さだなと思いながらも、私は先輩に「どうぞ」と説明の機会を譲る。 「直緒の前世が尚親だと知った時、俺は『尚親の死の真相を知りたい』って言ったんだ」 「「死の真相?」」 「あぁ。尚親は今川家からの命令で、若くして切腹させられてる。でもあれは、あまりにも急だった。何か裏があるはずだ。俺はそれが知りたい」  倉下さんも三沢君も、先輩の発言に暫く言葉を失ってしまった。 「難しくないッスか? それ。桔梗は側室だったし……それに俺、そんなに前世の夢見て無いしなぁ……」 「しかし何でまた淡雪の君がそんな事を?」 「俺の前世の淡雪は、尚親の死の直前に上地谷を追い出され、自分の息子と離れ離れにされて凄く未練が残ってるんだ。それでいつも俺は夢を見る度、淡雪の執念に(さいな)まれてる。淡雪を説得するなんて無理な話だが、何度も淡雪の訴えを聞いているうちに、俺自身も『何故尚親が死ななきゃならなくなったのか』が疑問に思えた」 「……」  倉下さんは顎を摩りながら、窓の外をじっと眺めている。何か思い出せそうな事でもあるのだろうか。 「このままわけもわからず夢に苦しめられるのも癪だから、直緒に協力してもらってるんだ。な?」 「え……ええ、まぁ」  協力……というより強制……という感じがしたけれど、今は言わないでおく。 「で、俺が知らないうちに直緒はお前らと出会ってたんだな。それで、こいつらにも協力して貰えば、早く真相がわかると思って俺らを集めた……そんなとこだろ?」 「お前らとかこいつらとか……本当酷いッスね」 「概ね先輩の言った通りです。驚かせてごめんなさい」  私が頭を伏せて謝ると、向かい側の倉下さんと三沢君は、「いやいや! 謝らないでください」と慌てた。 「驚きはしましたけど、僕なんかを頼ってくれたのは嬉しいですし」 「そ、そうですよ先輩! 俺も協力できるのが嬉しいです!!」 「ゲンキンだな、お前ら……」 「ありがとうございます。そう言ってくれて、私もホッとした」  安堵から微笑むと、それを見た倉下さんも三沢君も、ニッコリと笑顔を返してくれた。浅井先輩だけがそれを見て「けっ!」と悪態をついている。 「安心したらお手洗いへ行きたくなっちゃった……。ちょっと席外しますね」  そう言って私はテーブルを離れた。残された三人だけのテーブルが、途端に険悪なムードに包まれるとも知らずに……。
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