1.直緒の企み

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「僕は全然構いませんよ。ここから上地谷までだと……朝早く出て高速を使えば、何とか日帰り出来そうですし。学生じゃ往復の新幹線代だけでも大変ですよね」 「倉下さん……」 「智ちゃん、お前案外いい奴だったんだな! ここも奢ってくれるし!!」 「え?」 「ゴチになりまーす!」 (そこは三沢君も同調するんだ……)  上地谷に行く日時を決めて、私達は席を立った。会計の時、 「私も半分出しますね。あの二人を勝手に呼んだのは私なので……」 「そんなこと気にしないでください。僕はこれでも社会人なんで」 と、倉下さんに笑顔で返された。  こんな時に不謹慎だとは思ったが、社会人と付き合いたがっていた女友達を思い出し、「今ならその気持ちがよくわかる」と、右手拳をギュッと硬く握ってしまった。  店外へ出ると、倉下さんの車を確認した浅井先輩が開口一番、「これが智ちゃんの車? オッサン車だな」と言った。 「浅井先輩、失礼ッスよ。『一般的』って言わないと」 「そうですよ。当日乗せて貰うっていうのに……」 「あれ? 俺達今日チャリで来たけど直緒は?」 「私は倉下さんの車に乗せて貰ったから……」 「「何ぃ!?」」  咄嗟に先輩と三沢君は倉下さんを見る。すると彼はそそくさと運転席へ乗り込み、私もこの後の面倒臭い展開を恐れて、後へ続くように颯爽と乗り込んだ。 「直緒先輩! 俺が送りますよ!!」 「ロリコン! てめぇ、直緒に手ぇ出したらただじゃおかねーぞ!!」 というような罵声が飛んだが、私は「早く出してください」と言って、倉下さんに発車を促した。そんな二人を尻目に、倉下さんの車は滑り出す。 「本当、失礼な事ばかりでスミマセン……」 「え? いや、全然気にして無いから大丈夫ですよ。井上さんも気にしないで」  そう言って倉下さんは片手を振った。本当にロリコン呼びを気にしていないのだろうか。気にしていないならいないで、それはそれで問題があるような……。 「そう言えば倉下さん、私も含めて皆年下なのに何で途中からずっと敬語なんですか?」 「あぁ……本当ですね。営業やってるからかな?」  そうは言うが、これもやはり前世の影響ではないかと感じた。私は勿論だけれど、先輩と三沢君の前世は尚親の正室と側室だ。通孝からすれば身分は上になる。  先輩もそうだけれど、やはり前世の記憶が現世に影響を及ぼすのは、よろしくないなと改めて思うのだった――
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