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ふっと、消えた。体を支えていた何かがふっと消えた。落ちてゆく、落ちてゆく。どこまでも落ちてゆく。
大きく息を吸って、体を縮こませて。ふるふると全身が震えた。
ただただ泣く泣く。ただただ泣く泣く。
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朝陽が次第に視界を開かせていく。メガネが眩しそうに反射した。無理矢理起こされた子どものように両目を擦ると、吉良は大きなあくびを一つした。その拍子に抱えていたコンビニの袋が落ちそうになり、慌ててキャッチする。
「しっかり持ってろよ。甘い物は貴重だ」
「え……ああ、すみません」
車内に充満したキツいタバコの臭いは寝起きには厳しい。助手席の窓を少しだけ開けると肌寒いが爽やかな風が髪を靡かせた。完全に寝てしまっていたのか、住宅街だったはずのところから高速へ、辺りの景色は変わっていた。早朝の車通りが少ないどこまで延びゆく道を車が加速する。秋に色づく森の上空に重たい雲がのしかかるように浮かんでいた。
窓を閉めるとオーディオからラジオが流れていることに吉良は気がついた。女性のアナウンサーがまた眠くなりそうな柔らかい口調でニュースを伝えている。
「念のためにつけてみたが、今のところ死亡者はまだ出ていないようだ。どうやら病院と柳田が上手く抑え込んでくれているようだな」
「それでももう限界は超えているはずです。……僕がもっと早く真相に気づけていれば……」
月岡はオーディオのボリュームを絞った。
「おい、まだそんな泣き言言ってんのか。事態は終わっていないんだ。呪いの場所の特定に、そのあとの対処、頭を埋めるのはそれだけにしてくれ」
「そう……ですね」
吉良はおもむろに横に置いた鞄からメガネケースを取り出すと、中からメガネクロスを出してレンズを拭いた。曲がった弦も若干直しつつ再び掛けると、視界がクリアになった。
「場所はまだわからないですが、対処法は考えてあります。呪いの根源、人々に取り憑き形になる前の妖の集合体がいるはずです。それを結界陣で封印する。これしかありません」
「柳田のあの術か。まあ、当然そうなるよな。危険性はないのか?」
吉良は沙夜子の顔を思い浮かべた。不敵で強気な顔が「もちろん」と言わんばかりに笑顔になっている。それにたとえ危険があったとしても沙夜子ならば引き受けるに違いない。
「大丈夫です。というかですね、それしか方法がありません。沙夜子さん勘がいいのでもう待ち構えているかもしれないですよ。だから残りの問題はその場所がどこかということですが……」
「そのことだが、今向こうで雨平に確認してもらっている。そろそろ連絡がーー」
まさに丁度のタイミングで月岡のスマホが振動した。何の躊躇もなくスマホを耳に当てると片手で運転しながら電話口に出る。
吉良は呆気にとられていた。無線ならわかる。だけど電話に出るのはさすがにアウトなのではないだろうか。現職警官に、本当に警官なのか疑われてしまうのも無理がないような気すらしてくる。
「ーー了解」
電話を切ると、月岡はアクセルを踏んだ。一気にスピードが上がり、吉良の体が一瞬だけ座席を離れる。
「あ、危ない……」
「場所がわかった。ドンピシャだ」
「えっ?」
「二回の火災で全焼した旧総合病院。そこが事件の場所だ」
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