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話をしているうちにタバコの煙は消えていた。それに気が付かずに月岡はタバコの吸い殻を指の間に挟んだまま吉良の横へと並んだ。
「やり方は単純なようです。自分に憑いているモノを体から引き剥がすような感覚で置いてくると。そのためにはそのモノの親和性が高い場所へ行くこと、と書いてあります」
「親和性が高い?」
「はい。親和性とは、ある物質が他の物質とくっつきやすい性質を指します。そのモノがより結びつきやすい場所を選んで足を運ぶんですね。言わば、呪いの増殖です。何度も何度も足を運び、置いてくることで自身の体に憑いているモノはなくなっていきますが、その場所に溜まり続ける。心霊スポットと呼ばれる場所に、本来関係のない霊が集まるのと同じような感じでしょうか」
吉良は指で文字をなぞった。一文字一文字何が書いてあるのか、慎重に確かめるように。
「……なるほど、やっぱり几帳面な人のようです」
「なに!?」
「効果があるかどうかはともかく、少しでも上手くいくように話をしたわけですね。月に一度決まった日時だけ訪れ、そのときだけ水子霊の話をする。儀式の設定です。そして、家に帰り記録と思いをしたためた手帳を押し入れにしまって封をする。一月後同様のことを繰り返す。このサイクルを延々と二年間行ってきた」
「それで二年後の今、成就したということか? ーーでも、待てよ。なのになんであのババアも取り憑かれてるんだ?」
顔が上がった。確信に満ち満ちた瞳が真っ直ぐに前を見据える。その先には何もないはずだが、何かと対峙しているように。
「妖は、そんなに弱いものじゃない。彼ら、彼女らは生きている。生きるために無から有へ形をつくり出した存在。生への渇望は、そう簡単に終わるはずがない」
月岡は驚いたように吉良の様子を見つめていた。瞬きをした途端に気づいたのか、持っていたタバコを携帯灰皿に入れた。吉良はまた視線をゆっくりと下へと落としていく。
眼鏡が上がった。
「たぶん本当は形なんてなかったんです。声は聞こえていたのかもしれないですが、形はなかった。それなのに彼女の行為が形を与え、妖をつくり出してしまった。無惨にも消されてしまった命に新しい命を与えてしまった。それが、今回の始まりです」
細く長い息が吐き出される。吉良は両手を机の上にそっと置くと、目を閉じた。耳鳴りのしそうなほどの静けさが椅子と長机しか置かれていない寂しい部屋の中を浸透していった。
月岡は新しいタバコを取り出すとすぐに戻した。頭を掻くと、音を立てることなく部屋の外へと出ていった。
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