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噂の文房具
俺はこの春、高校へ入学した。
どこにでもある普通のオンボロ校舎だ。海が見えるのがウリらしく、それが目当てで来る留学生も多い。
そんな学校への通り道にポツンと一軒、古くて小さな文房具店がある。
そこに判子のような丸眼鏡をかけた女店長、通称スタンプさんと呼ばれている人がいる。
皆から慕われているがケチでオヤジくさい、と耳を疑う噂で話題に上がる。
しかし、そんなことはどうでもいい。
俺には絶対にやり遂げなければいけないことがある。
「ラ、ラブシーリングスタンプ……ください」
「おやおや、君のようなハデな少年がラブシーリングスタンプを所望なんて珍しいね。君も噂を聞いた口かい?」
文房具店なのに客は女性ばかり。
最新の文房具など数える程しかなく、埃くさい。
魅力も話題性も上がらず、悪いところばかりで、良い所を探すほうが難しい店。
俺のようのなシルバーアクセに金髪の客が来たら目立つのは分かる。
格好だけでも十分なのに、今巷で話題のラブシーリングスタンプを俺は購入しようとしている。
「スタンプさんーこの人も噂を聞いてやってきた人ですか?」
「そうみたいだね。ちょっと対応するから、また後でターップリと恋話を聞かせて頂戴な」
「バイバイ、また後でねー」
自分でもどうかしていると思う。
案の定、スタンプさんは訝しげな表情を浮かべた。
「スタンプさんってあだ名、本当だったんだ」
「そうさ。結構、気に入っていてね。ホラ、この丸眼鏡と文房具店のイメージで呼ばれたのが始まりさ」
無駄話はいいから、早くラブシーリングスタンプを売ってくれないだろうか。
店に入るだけでもかなり勇気がいるし、ラブシーリングスタンプなんて名前、クソダサい名前も言わされたんだ。
一刻も早く、手に入れて出て行きたい。
「ところで少年、私は君を知っているぞ。いつも店には来るが、今まで一度も商品を買ったことがないよね?」
くっ、やはりバレていたか。
元から来客数が少ない上に、俺の外見は覚えやすい。
もっと上手く立ち回れば良かった。
「君のような少年に素晴らしい文房具の購買意欲が沸いたと思ったんだけど、杞憂で終わりそうだね」
「……売ってくれないのか?」
「あぁ、残念だが」
「分かった。じゃあ、勝手に探す」
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