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スタンプさんの言う通りだ。
わざわざ手間のかかる手紙なんか出さない。
親が懸賞か何かを出しているのを見たことあるけど、俺は書いた事なんて一度もない。
「スタンプさん。そんな事よりも俺……」
「まーまー落ち着きたまえ、少年。せっかちはモテないぞ」
「……分かった」
「ふむ。素直でよろしい。しかし少年、まさかとは思うけど。念のため聞いていいかな?」
「何を?」
「本気でこの手紙を使うと両想いになれる、そんな乙女チックな噂を心の底から信じているのかい?」
「ち、違うのか?」
「ピュアーピュアすぎて、お姉さん、少年が輝いて見える」
「スタンプさん、茶化さないでくれ」
「失礼。つまり、肝心なのは自分の秘めたる想いを手紙にするという事さ」
「えっと、どういう意味?」
「アプリで言葉を伝えるのがダメと言ってるわけじゃない。手紙に想いを綴り、封蝋を使って閉じる。この面倒な手順が大事なのさ」
「面倒なのが大事?」
「例えば、こんな手の込んだ代物をわざわざ送ると仮定した場合、君の友人たちに送ったとしたらどう思われるかな?」
バカばっかしてるあいつらに手紙を送る。
そんな事、考えたこともない。
「多分だけど、あいつらなら次に会った時のネタにされて笑い物にされるな。うん、間違いない」
「だから送る相手を選ぶ、というのが重要なのさ」
面倒な手紙を書いて、それを受け取った相手が本気で応えてくれる。
「そうか。分かったよ、スタンプさん」
封蝋が普通に使われていた時代のことは知らないけれど、すぐに連絡ができるこのご時世にわざわざ手紙を送る目的なんて、一つしかない。
「使う目的は恋文だ。だから使うと両想いになる」
「恋文なんて、古風な言い回しをするね。ラブレターでいいじゃないか」
「そ、そんな恥ずかしいこと、言えるかっての!」
「ラブシーリングスタンプにも抵抗があったみたいだし、そういう年頃なのかね。うんうん、お姉さんにもそういう過去はあったものさ」
「……どうして、そんな大事な話を俺なんかに?」
「ふふっ、少年になら話してもいいと私が思ったからさ。美人で知性が溢れる女人のカンってやつだよ」
「ありがとうございました」
「いえいえ、毎度ー」
スタンプさんからシーリングスタンプと両想いになれる手紙を受け取ると、俺は急いで退店した。
「ふふふ、青春だーねー」
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