ヤマタノオロチ退治は、大規模河川工事成功の意味だった

2/3
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
 ところで、出雲国の肥河上流にある鳥髪山とは、いったいどういう場所なのでしょう。「ヤマタノオロチ 河川」というキーワードでネットを検索してみますと、鳥取県東部・船通山(せんつうさん)斐伊川(ひいかわ)という地名・河川名がヒットします。ちなみに、出雲国は現在の鳥取県です。  斐伊川は、上流から下流まで百五十三キロメートルもの長さがある川で、いくつもの支流を呑み込みつつ、杉などの木々の茂る山や谷を通り、出雲平野を貫いて宍道湖(しんじこ)へと流れ込む大きい川であるそうです。  古来から、川や水脈を大蛇や竜に例え、水神としてお祀りする考え方があります。  当時は仏教伝来前の時代で、自然崇拝が宗教の基本的概念であったので、大きな川を大蛇として表現しても何ら違和感はなかったのではないでしょうか。  細くてチョロチョロと流れている上流を「尾」。ゆったりと流れる本流を「胴」。そして湖に流れ込む下流を「頭」として考えると、何だかヤマタノオロチの記述と似ていますよね。  僕は長崎在住者で、市内からあまり外へ出ない人間なので、実際に鳥取県東部・船通山・斐伊川の地形が「八つの谷超え、八つの峰を渡る……」ようになっているのかはわかりません。そして斐伊川の支流が、本当に八本あるのかも知りません。ひょっとしたら数的には合致しないのかもしれません。  ところが、「古事記」の記述には「八」へのこだわりが多く見られるのです。古事記に登場する地名や名称を例に挙げれば、大八島(おおやしま)八尋殿(やひろどの)八咫烏(やたがらす)八十建(やそたける)八衢(やちまた)八重雲(やえぐも)とズラズラ~っと出てきます。そして三種の神器である八咫鏡(やたのかがみ)・八十握剣、八坂瓊勾玉(やさかにのまがたま)にも、「八」の形容詞が多く見られます。  これらのことを考えると、八は呪術的な意味での形容詞であり、数そのものを表しているのではないので、必ずしも実際の地形と合致しなくてもよいのでは……と、思っています。  少し脱線しましたが、話をヤマタノオロチに戻しますね。  もしもヤマタノオロチが斐伊川を指しているのならば、「その腹はどこでも血が垂れ爛れています」の記述はどう考えれば良いのでしょう。その答えは「鉄」です。  斐伊川上流部は、砂鉄の産地になっています。ジブリの「もののけ姫」にも出てきますが、「たたら製錬」の現場で、鉄器産業が盛んな地域です。  鉄は酸素と結びつきやすい性質を持っており、酸化して錆びると「赤く」なります。斐伊川の川底は酸化鉄で赤くなっている場所があるそうで、まさしく「その腹はどこでも血が垂れ爛れて」の表現がピッタリなのですね。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!